世界的ブームとなっているジャパニーズウイスキーは、いまや年間の輸出額が200億円にのぼる。そのブームより前に誕生し、ウイスキー冬の時代も経験したのが、中央アルプスの駒ヶ岳山麓に建つ『マルス信州蒸溜所』だ。
鹿児島の焼酎蔵である本坊酒造が、1985年にウイスキー造りに適した理想郷を求め、長野県の上伊那郡宮田村に辿り着く。
ウイスキー需要が低迷した1990年代から焼酎ブームが起こった2000年代には蒸溜をストップした時期もあったが、ジャパニーズウイスキーの世界的ブームを受け、昨年は見学客が試飲できるバーが入ったビジター棟を建て、蒸溜・熟成設備を拡充。折田浩之所長が言う。
「日本のメリハリのきいた四季と、丁寧な製造技術が、海外におけるジャパニーズウイスキーの人気に繋がっている。新しい蒸溜所が全国各地に建ち、競争が生まれるのは業界の未来を考えれば良いことでしょう」
標高798メートルの地に建つ蒸溜所の施設内にはバーやショップもあり、ウイスキーだけでなくマルス山梨ワイナリーのワインや、猿田彦珈琲の生豆をウイスキー樽で寝かせて香りをつけたコラボ商品なども購入できる。
鹿児島のマルス津貫蒸溜所に加え、屋久島にも熟成庫を構え、多彩な原酒を育んでいる。国内のクラフトウイスキーを牽引する蒸溜所である。
撮影/太田真三
取材・文/柳川悠二
※週刊ポスト2021年2月12日号