茅葺き屋根の湯野上温泉駅舎(時事通信フォト)
会津鉄道は約57.4キロメートルの鉄道路線で、福島県会津若松市の西会津駅と南会津町の会津高原尾瀬口駅とを結ぶ。
和歌山電鉄と同様に、会津鉄道にも2008年にネコの「ばす」が名誉駅長に就任。ばすが名誉駅長を務めるのは湯野上温泉駅ではなく芦ノ牧温泉駅だが、駅舎に住み着いていたことを理由に会津鉄道が名誉駅長に任命し、2016年にばすが死去すると2代目の「らぶ」が名誉駅長を引き継いだ。
和歌山電鉄と会津鉄道は世界遺産に認定された伝統技術を用いた駅舎があるというだけではなく、奇しくもネコの駅長・名誉駅長という点でも共通している。
「湯野上温泉駅の茅葺き屋根は、毎年、一部を少しずつ葺き替えています。そのため、手間も費用もかかります。しかし、会津鉄道にとって湯野上温泉駅は目玉ともいえる駅です。手間や費用がかかっても、茅葺き屋根は維持していきたいと考えています」(同)
湯野上温泉駅は茅葺き屋根という特性から、7~8月にかけての夏場を除いて防虫目的で囲炉裏に火が灯される。茅葺き屋根だけではなく、囲炉裏を維持するのも大変な苦労を必要とする。
伝統技術を用いた建築物・建造物は、維持管理の面から歴史の波に飲み込まれつつある。同じく鉄道業界も、IC乗車券の登場や自動運転の導入といった新技術の台頭に直面し、古くなった車両や駅施設などは姿を消して職人技は必要なくなりつつある。
これまで培ってきた技術や知見が後世に継承されないまま失われていくことは、どの業界にとっても頭の痛い問題だろう。
和歌山電鉄や会津鉄道といった鉄道業界から、分野は違えども伝統建築の技術を守ろう・残そうとする機運が芽生えている。伝統技術は決して時代遅れの技術ではない。技術立国を目指す日本にとって、過去の技術を継承して未来へとつなげることは重要な課題でもある。
世界遺産とねこ駅長、一見、奇妙な取り合わせだが、どちらも観光の目的になるだけの力を持った存在だ。その二つが同時に楽しめるローカル鉄道の旅を心おきなく楽しめる日が、もうすぐやってくることを期待されている。