多くの口コミに見られるように、非浦英莉可を演じる平手はたしかにハマり役だ。しかし、『響-HIBIKI-』で演じた鮎喰響役ほどではなかったと感じたのが正直なところ。優れた文才と鋭い感性の持ち主である響役には、『響-HIBIKI-』の原作者である柳本光晴 自らが平手を指名したくらいである。欅坂46というグループの結成から脱退までセンターを務め続け、“天才肌の持ち主”とも評された平手自身と重なるものも大きかった。
『さんかく窓の外側は夜』でも、平手が演じるのは謎めいた人物で、クールでミステリアスな雰囲気を放つ平手にはぴったり。だが本作でフォーカスされるのは、あくまでも主人公の2人。ヒロインながら非浦は、想像していた以上に出番もセリフも少ない。ここで彼女が観客の興味を惹きつけるには、原作通りのキャラクター設定に加え、それに見合った演じ手の存在感や魅力が必要だ。
そこで平手が見せたのが、彼女の“等身大” の姿だ。非浦が何かを決意したり悲しんだりする際の、クールでミステリアスな印象とは相反する、ありのままの若者らしい“芝居”には惹きつけられるものがあった。負の連鎖を断ち切るために非浦が三角と手を組む決意をする瞬間や、かつて自分の目の前で命を落とした母との写真を見て物思いにふけるシーンなど、 “特殊能力を持つ者”ではなく、“普通の女子高生”を演じている。平手自身のパーソナリティーやパブリックイメージと役柄との重なりも重要だが、こうした瞬間にこそ、彼女の俳優としての新たな顔が見えていたように思う。
平手は演技経験こそ少ないが、本作のプロデューサーは「メインキャラクターは全員、“特殊な能力を持って生まれた”存在であり、そのことにより社会との接点で苦しむ姿が描かれますが、平手さん自身も、持って生まれた表現者としての存在感とオーラで周囲を惹きつけています」と、非浦役に平手を指名した理由を語っている。演技の経験値ではなく、トップアイドルグループでセンターを務め続けるという稀有な経験をしてきた平手だからこそ、立体化させられたキャラクターではないだろうか。
本作の幕引きは、「続編」を匂わせるもの。そのトリガーとなるのは、恐らく平手が演じる非浦だろう。もし実現するならば、続編でも同じ役で、平手の持ち味である“起爆力”が見たいものだ。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。