役者として食べていけるようになったのは、四十歳手前になってから。それまで、やめようと思ったことは何度もあるという。それでも、出演する作品は選んでいた。
「『仕事ならなんでもやる』という人もいると思うけど、僕はそうじゃない。これ、やめようよ……ということは結構あります。金のため、という意識はないです。金は後から付いてくる。金欲しさでやると、ロクなことがないんです」
役者の美学が、そこにあった。
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2021年2月19日号