異例の無観客で開催されているプロ野球春季キャンプ。この時期にしか見られない光景が、延々とノックを受け続ける「特守」だ。ソフトバンクホークスの松田宣浩は、数ある練習法の中でも、とりわけノックを受けることを大切にしてきたという。
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福岡ソフトバンクの不動の三塁手といえば、松田宣浩だ。昨シーズンこそ終盤にスタメンを外れ、2014年から続いていた連続試合出場記録は815試合で止まったものの、プロ16年目を迎える2021年も、5年連続日本一へ向け常勝軍団を牽引する立場であることに変わりはない。
2006年に亜細亜大から希望枠で入団した時、1軍内野守備走塁コーチを務めていたのが、球界一のノックの名手とされる森脇浩司(現・千葉ロッテ一軍内野守備走塁コーチ)だった。
「初めてのキャンプに臨むにあたって、打って守って走って、試合をすればいいという感覚だった。全体練習のあとに、個人練習があるなんて考えてもいませんでした。
当時のことは、土の味しか覚えていない(笑)。毎日、全身泥まみれになって、同期の本多(雄一、現・福岡ソフトバンク1軍内野守備走塁コーチ)と一緒に森脇さんのノックを日が暮れるまで受けました」
王貞治をして、「ノックだけで飯が食える」と言わしめた森脇のノックは、正確無比で精密機械のようだった。
「三塁線、三遊間、前、後ろと、4項目に分けて受けるんですが、まったく捕れない場所には打たず、飛びつけば捕れるか、捕れないかの絶妙なところに打ち分けるんです」
松田には守備に関して、忘れたくても忘れられない苦い思い出がある。岐阜の中京高校(2020年より中京学院大中京から元の校名に改称)2年次に出場した夏の甲子園初戦で、自身の暴投により決勝点を与え、初戦敗退を喫したのだ。
「あの日以来、一球の大切さを自覚し、一回のキャッチボール、一回のノックを無駄にしたくないという思いで野球をやってきました。
中でも大事にしてきたのがノックです。バウンドを見極め、グラブにおさめ、スローイングを丁寧に正確に行う。闇雲に左右に飛ぶ練習も必要だとは思いますが、ノックで心がけるべきは、ノッカーがイメージしたとおりの捕り方で捕球できるかだと思います」
松田はこれまで、守備の名手に贈られるゴールデングラブ賞を8回受賞した。
「プロ入り当初は夢のまた夢だと思っていました。新人時代の映像を観ることが今でもあるんですけど、下手くそやったですね。身のこなしもダメで、年齢を重ねた今の方が圧倒的に上手だと思います」