メンバー構成に関しては入れ替わりがあるものの、着実に人気を伸ばしている。音楽専門の書き手ではない私の耳にも、彼らが「ドームライブが近い」との噂が聞こえてきた。そんな人気者が演技をすると聞けば、つい目が追ってしまう。でもなぜ、評価と競争が渦巻く厳しい演技の世界に敢えて足を踏み入れたのか……?
ドラマの初回放送で彼が登場したときは「あのAlexandrosだ」とは思ったけれど、胸にグッとくるものはなく、拍子抜けをした。最近の男性の特徴になってしまった厚い前髪、なかなか変化しない表情。彼の歌声ならじわじわと伝わってくるものがあるのに、セリフだとどうも右から左へ抜けていた。
伸びやかな歌声のように、漱石役の人気も上昇
ところが、初回放送時の感想を裏切っていくかのように、漱石が放送回ごとに面白くなった。大手出版社の社員でエリートのはずなのに、中堅どころの辛さで仕事がうまく回せない。私生活は思い描いたような恋愛はできない……と、(失礼ながら)雰囲気イケメンの風貌と漱石の役がリンクしているのだ。
セリフの言い回しや抑揚など、演技の全般的な評価は置いておくとしても、とにかく“間の取り方”がどんどん共演者と絡み合うようになっている。演技初心者であることを疑うほど、菅野美穂さんのようなベテラン女優を相手にしても見劣りがしないのだ。自身の伸びやかなヴォーカルのように、着実に演技も伸びているという表現が似合う。
やはり表現する世界で、ひとつ何かを極めた人は他の分野でも才能を発揮する。ひょっとしたら凡人には理解し難い、一流の人としての勝算が川上さんには見えていたのではないだろうか。そんな一つの結論にたどり着いた。
実は2017年公開の映画『きょうのキラ君』に出演を果たしていたが、本作により全国区で知られることになった俳優・川上洋平。次作の出演は朝ドラあたりだろうかと予想を立てつつ、次の放送を待つ。
【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。