この時代にアーティストであるということの覚悟
感染症対策を徹底した会場。客席は1席ずつあけられている
ライブエンターテイメントの時代だと言われていたが、いざ新型コロナショックが直撃すると、アーティストを直接支援する取り組みは不十分だ。柴田氏はむしろ、国がアーティストに対して無頓着であることにより、吹っ切れたという。
「偉い方が“我が国には、いざとなったら生活保護という受け皿がある”というようなニュアンスのコメントをしたというニュースを目にした瞬間は、とても傷つきました。
でも、エンタメ関係に対して、特別な配慮をしてもらいたいなどとは思ってもいませんでしたし、やるせなくなるほど惨めな気持ちにさせられる覚えもない。僕が命を賭けてやってきたことを喜んでくれる人はきっといるはずですから。僕が大事にしなきゃいけないのは、ANTHEMを聴きたいと思ってくれる人たち、音楽を愛する人たちです。そんなこともあって、落胆と同時にどこか吹っ切れたんです」
1年間の苦悩を経て、柴田氏にはアニバーサリーツアーに向け、力がみなぎっている。2018年に還暦を迎えた自身にとっても、経験したことがないような事態が続いたが、信じて前に進むしかない。
ツアーには、2013年に脱退したドラマー本間大嗣氏も久々に参加するなど、嬉しいニュースもある。今回、公演を断念した札幌にも必ず年内に行こうと決意を固めているようだ。そして、ツアー終了後にはレコーディングの再開なども視野に入れているとのこと。
新型コロナショックのアーティストへの影響は想像を遥かに上回るものがある。国は芸術には無頓着だ。それでもアーティストたちは前に進むのだ。
■取材・文/常見陽平(働き方評論家・千葉商科大学国際教養学部准教授)
写真:Mamoru Suzuki