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被災者が振り返る非常時 水と同等に貴重だったのは「情報」

(写真/PIXTA)

何を備え、何を外すべきか(写真/PIXTA)

 備えあれば憂いなし。しかし、備えすぎはリスクにもなる。震災への意識が高まっているいま、なんでもかんでも準備しておけばいいというわけではない。何をどう備えておくのが適切なのかを知っておく必要がある。

 熊本地震(2016年)の被災者である飯田茉里子さん(仮名・35才)の家庭では、普段から洗濯用として浴槽に水をためておく習慣があったため、トイレを流す水や、最低限の衛生を守るための水は確保できた。

 だが、阪神・淡路大震災(1995年)を経験したヘアメイクアップアーティストの加藤聖子さんさんの家では、地震によって浴槽がまっ二つに割れてしまっていたというので油断ならない。

 さらに、備蓄の方法に不安のある家庭も少なくないと防災アドバイザーの岡部梨恵子さんが指摘する。

「ミネラルウオーターを10箱近く買って高々と積み上げたり、置き場所がないからとたんすの上を非常グッズ置き場にしている家庭がある。地震で揺れたら、高所での保管は落下の危険があります。

 非常グッズは1か所にまとめるのではなく、水ならば2リットルのペットボトルを子供部屋やリビングなど各部屋に置いて『分散備蓄』した方がいいでしょう」

 ただし、賃貸で暮らしている人は、いくら自宅に備蓄が充実しているからといって安心はできない。熊本で被災した女性は、「生理用品すら取りに帰れなかった」と語る。

「私はアパートでひとり暮らしだったのですが、余震が落ち着いたので避難所から自宅へ戻ると、アパートが立ち入り禁止になっていたんです。荷物を取りに中へ入ることも許されませんでした。結果的に再び大きな揺れがあったのですが、生理用品もないまま長期の避難所生活を余儀なくされ、精神的に参りました」

 これは、耐震基準が古いアパートに限った話ではない。都会のタワーマンションでも同様のことは起こり得る。

「2019年の台風19号の被害では、高層マンションの地下にあった電気系統が水没し、エレベーターが完全にストップしました。すると、高層階の人は何十階も階段を上らなくてはならない。同じようなことが大地震でも起こる可能性はあります。『絶対に自宅は大丈夫』という人はいないのです」(岡部さん)

 被災者たちが水と同等に「貴重だった」と口をそろえるのが「情報」だ。現代は、最新のスマホさえあれば防災袋の荷物は大きく減らせる。

「ライトにもなるし、ラジオ代わりにもなるし、地図も見られる。避難中はとにかく心が不安になるので、大好きなK-POPの最新情報を調べることがいちばんの気分転換でした」(飯田さん)

 もちろん、水没や破損の危険性がないわけではない。充電器と乾電池も欠かせないが、数週間復旧しなかったガスや水道と比べ、電力はいずれの大地震でも3日程度で復旧している。地理的、設備的な問題もあり一概には言えないが、高額な家庭用発電機を準備するより、ほかのところへ目を向けた方がいい場合が多そうだ。

「避難生活では、『自分だけ助かろう』という気持ちを捨てるべき。万一のときでも、『誰かが助けてくれる』『誰かを助ける』というつもりで準備しておけば、余計な荷物が増えることはありません」(加藤さん)

 助け合う精神だけは手放さないようにしたい。

※女性セブン2021年4月1日号

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