亡くなって時間が経ってなお師匠の存在の大きさや偉大さを実感している(写真提供/乾き亭げそ太郎)
そこからげそ太郎さんは心を入れ替え、仕事の合間や貴重な休日にコントの台本を書き始めます。ネタ会議でネタの山に紛れ込ませますが、最初はまったく引っかかりません。続けているうちに、少しずつ採用されるようになっていきました。この頃から、コントのちょい役での出番も増えてきます。
「本を書いてあらためて感じましたが、志村さんは芸人としても人としても、僕のことをとても大事に育ててくれました。してもらったことの向こうにある深いやさしさに気付いて、どれだけ感謝しても感謝しきれません。今でも、3年目のときに言ってもらったことは、すごく大事にしています。置かれた状況でベストを尽くせ、もっと自分にできることはないか考えろ。今、おもにリポーターの仕事をやらせてもらっていますが、普通にリポートして伝えるだけだと『僕の仕事』とは言えない。僕なりのエッセンスを何か加えようと、常に考えています。この1年は、とくに強く意識するようになりました」
志村さんが急逝して以来、テレビでは何度も志村けんさんやザ・ドリフターズの特番が組まれました。YouTubeでも『志村けんのだいじょうぶだぁ』や『8時だョ!全員集合』の動画が大人気だし、ドリフのコントや歌が登場する缶コーヒーのCMも話題になりました。なんとも皮肉な状況ですが、志村さんが遺した作品は、コロナ禍に苦しむ日本を明るく励ましてくれています。
「どんな大スターが亡くなっても、1年にわたって関連の番組が作られるなんてことはないですよね。しかも、みんながしんみり見るんじゃなくて、コントでの元気な姿を見て大笑いしている。やっぱり志村けんという人はすごい。その存在の大きさや偉大さを実感しています。そんな人の弟子になれて、おかげでこうしてどうにか芸人を続けてられている。自分は本当に幸せものです」
緊張して、必要以上に遠慮していた
一周忌の前日にあたる3月28日(日)には、フジテレビ系で夜7時から『春だ!ドリフだ!みんなあつまれ全員集合!』が放送されます。局の垣根を超えて『8時だョ!全員集合』のコントもふんだんに盛り込まれているとか。「たくさんの人が見て、何も考えずに笑ってほしいですね」とげそ太郎さん。今、あらためて志村さんに聞いてみたいことは?
「そうですね。『僕、もっと飛び込んだほうがよかったでしょうか?』って聞いてみたいかな。付き人をやっているあいだもそのあとも、目の前に出ると緊張して、必要以上に遠慮していた気がします。憧れの人だったから、嫌われたくなかったんですよね。もっと志村さんに飛び込んでいったら、別の顔が見えたかもしれないし、違う芸人人生があったかもしれない。志村さんはどう思ってたのかな。もっと飛び込んで来いと思っていたのか、あれでよかったのか。聞いてみたいけど、ああ、でもやっぱり怖いから聞きたくない」
師匠と弟子の絆は、これからもますます太くなっていきそうです。国民的な人気を集めた「志村けん」には、まだまだ私たちの知らない一面や、気づいていない魅力がたくさんあるはず。弟子が書いた本を読み、関係者の証言に触れ、そして彼が丹精を込めて作ったコントを見て笑うことで、引き続き新しい「志村けん」との出会いを楽しみましょう。
●取材・文/石原壮一郎