上野:そのお話から、並々ならぬおひとりさま力がうかがえます。でも下重さんは、おつれあいの方がいらっしゃるじゃないですか?
下重:ええ、いちおう。でもね、同じ家に帰るというだけ。部屋も別ですしね。
上野:私、毎週朝日新聞土曜版で作家の小池真理子さんが連載されている「月夜の森の梟」を愛読しているんです。昨年1月に夫で作家の藤田宜永さんをがんで亡くした悲しみを、1年経ったいまも切々と綴っていらっしゃる。私は経験がないので、配偶者ロスのつらさはこれほどまでに深いのかと推し量ることしかできません。そこで下重さんにぜひうかがいたいのですが、もしものとき、死別の苦しみをどんなふうに味わうとお考えですか?
下重:うーん、私はそこまで長くは悲しまない気がします。もちろん、最初は悲しいし、寂しいと思います。つれあいがいない生活に慣れるまではね。でもロスを長く感じるほど、深くつきあっていない気がしている。以前から一緒に住んでいても、あまり顔つきあわせてしゃべらない。最終的に人はひとりだというのが、どこか根底にあって、べったり一緒にいたくないのよ。微風の吹く関係かな?
ただ料理が趣味で上手だから、作ってくれる。私は食べる専門。なので、いなくなったら困る気はします(笑い)。
上野:それってうらやましい。
下重:ずるいかもしれないけど、いざというときにロスを感じないよう、普段から距離をつめすぎないように自分をしつけている気はします。つれあいが先にいなくなるのをどこかで恐れているのかもしれません。
上野:私もそう。昔から自分に対してしつけをして、教え育ててきたところがあります。他人に自分を預けたりお互いにもたれ合ったりする関係を作らないようにしてきました。若いときには自我を食いつぶし合うような恋愛をしたこともありましたが、おかげさまで妄想から醒めました。
下重:私もつれあいと出会う前に大失恋をして、いまでもひきずっているくらい(笑い)。なので、その後は距離をつめないように学びましたね。
上野:特に仕事をして生きていくうえで、恃むのは自分だけという場面を何度も経験しますからね。どんなに自分を愛してくれる人がいても、仕事で土壇場に追い詰められたら切り抜けるのは自分自身。誰にも責任転嫁できないし、男が窮地を救ってくれるわけじゃない。ひとりだという覚悟が備わっていないととても耐えられない。ピンチもチャンスも、自分ひとりで受け止めるしかありません。
【プロフィール】
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/1948年生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。日本における女性学・ジェンダー研究・介護研究のパイオニアとして活躍。社会学者、東京大学名誉教授。『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『おひとりさまの最期』(朝日文庫)など著書多数。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/1936年生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、民放キャスターを経て文筆活動に入る。『家族という病』『極上の孤独』『明日死んでもいいための44のレッスン』(すべて幻冬舎)など著書多数。
取材・文/戸田梨恵 撮影/田中麻以
※女性セブン2021年4月22日号