コロナ禍のいま、自分を見つめ直すことについて語る下重さん
〈下重さんが『女性セブン』に連載していた「夕暮れのロマンチスト」をまとめた『自分をまるごと愛する7つのルール』が4月1日に発売された。著書のなかで、閉塞感や不寛容が蔓延する社会を生き抜くためには悲しみや不安を含めて自己と対峙し、自分をまるごと愛することが大事というメッセージをちりばめた下重さん。女性学や介護研究のパイオニアでもあり、近著『在宅ひとり死のススメ』も話題になっている上野さんは、下重さんには“おひとりさま力”があるという〉
上野:私自身、結婚歴もなくずっとひとり暮らしをしていて、おひとりさまに関する本をいくつも書いてきました。つい数年前までは、おひとりさま=負け犬、というような、ひとりというと寂しい人だと思われていたけれど、「大きなお世話!」と言い返したかったのが執筆の動機です。多くのおひとりさまに読んでいただき、いまやおひとりさま人口は着実に増え、その生き方のイメージはガラリと変わりました。下重さんのこれまでの著書や新刊『自分をまるごと愛する7つのルール』を読ませていただきましたが、おひとりさま力が相当おありですね。
下重:長引く自粛生活で孤独を感じる人が増えていますが、ひとりの時間をどう過ごすかが大事だと改めて感じています。いまの時期に自分を見つめ直すことができた人は、以前とは全然違う価値観を身につけられる。でも、人とつながることばかり考えていると、コロナを経ても希薄なつながりに縛られた生き方から抜け出すことはできません。
上野:緊急事態宣言が明けると待ちかねたように人が街に繰り出しているでしょう。そんなに外に出たかったのかと驚きます。私だって、美食は大好きですよ。カウンターでお寿司を食べたいと思うこともある。でも、なくても平気だと気づきました。
下重:私も外で遊ぶことが大好きだけど、ひとりの時間を楽しむのはもっと好き。人と会えないから寂しいと思うことがないんです。
上野:世界をどんどん広げたい若い人ならいざ知らず、もう私は人生の撤退戦の最中ですからね。物欲もなくなって、通販カタログを見ても、こんなのどこに着ていくのかと思うようになりました。わずかなもので人は過ごせるものだと、しみじみ感じています。
下重:私はね、子供の頃に結核で、2年間も隔離されて家で療養していました。友達もいなくて、昔からひとりで過ごす時間が多かったので、おひとりさま歴はかなり長い。でも退屈だと思ったことは一度もありません。家にあった父親の画集や書物を見ていました。
上野:そういうときは書物がよいお友達ですね。
下重:生き物の友達といえばクモ。
上野:クモ!? 巣を張るのをじーっと見ていらっしゃったの?
下重:ええ、糸で張った網に雨が降って水滴がつくとなんともいえず美しい。クモはなかなかかからない獲物を隠れてじーっと待っていて、ちょっとでも網がゆれるとあっという間に獲物を捕まえるんです。いまでも大好きですし、待つことと素早い行動が大事だってことを学びましたよ。