モーツアルトも退屈な故郷で名曲を

 モーツアルトもまた故郷での退屈な時間を「創造的休暇」として過ごし、その才能を発揮している。

 音楽家の父に連れられて、ヨーロッパ各地で宮廷音楽家として演奏したモーツアルト。実に6歳から25歳までの間で、1年の半分は旅というハードなスケジュールを過ごした。モーツアルトが35歳の若さでこの世を去ったことを考えると、人生の3分の1を旅に費ついやしたことになる。

 そんなモーツアルトが4年にわたって故郷のザルツブルクに滞在したことがある。旅ばかりの人生からの解放である。さぞリラックスできただろうと思いきや、モーツアルトにとって、故郷での日々は、苦痛以外の何物でもなかった。

「ザルツブルクは、ぼくの才能を生かせる場所ではありません。第一に、ここでは音楽家達が全く尊敬されていないからです。そして第二に、ここには人びとの聴く音楽がなく、劇場もオペラもないからです」

 どうもモーツアルトにとって、故郷のザルツブルクは、音楽家としての価値を感じられる場所ではなかったらしい。欝々としながら、モーツアルトはこの不快な時期を乗り越えて、すぐにまた旅に出ている。

ベルトラムカ荘(モーツアルト博物館)の展示室(チェコ・プラハ/時事通信フォト)

ベルトラムカ荘(モーツアルト博物館)の展示室(チェコ・プラハ/時事通信フォト)

 ところが、意外なことに、モーツアルトの傑作として知られている作品の多くは、故郷で鬱々としていた時期に作曲されたものなのである。

「交響曲第25番ト短調K183」「ピアノ協奏曲第9番 変長調K271 ジュノム」「交響曲第29番 イ長調 K201」「ファゴット協奏曲 変ロ長調 K191」「ヴァイオリン協奏曲」「セレナード第7番 ニ長調 K250K ハーフナー」……。

 ニュートンと同じく、モーツアルトもまた故郷で退屈な時間を過ごしたが、振り返ってみてみれば、実りの多い孤独な「創造的休暇」だったのだ。

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