『あなた』について語った小坂明子さん
それと、高校の国語の教科書にも「情緒あふれる詞」ということで取り上げてもらったんです。でも、実はあの曲は大失恋の歌なんです。私は世の中でいちばん悲しい歌だと思っています。
歌詞にも仕掛けがあって、「家を建てるなら」ではなく、「建てたなら」と。全部それは過去の夢だった、終わった恋だということを、あの歌詞で表現したかったんです。周囲からは「そんな日本語はない」と、言われましたけど(笑い)。
いまは、昭和ポップスが注目されているそうですが、私もこれまで2000曲以上、いろいろなかたに曲を提供してきました。メロディーは不変なので、やっぱり、昭和のときの強いメロディーがずっと、いまの時代も繰り返されているんだと思います。音って、ドからドまで♯や♭を入れても13個しかなくて、その組み合わせですから、売れる曲のテイストは、いまも変わらないのではないでしょうか。
もちろん、昭和の頃といまの曲作りでは違いがたくさんあります。テンポ感も全然違いますしね。
たとえば、昭和の時代は八分音符が並んでシンプル。でも、いまの曲は十六分音符がズラッと細かく並んでいます。それと、日本語は1音につき1つの言葉が当たり前だったんですけど、いまの時代は倍くらい言葉が詰まっている。それだけ忙しい世の中になったんだと思います(笑い)。
【プロフィール】
小坂明子(こさか・あきこ)/1957年、兵庫県生まれ。1973年に『あなた』でデビュー。1984年から個人事務所を設立し、ポップス、テレビアニメ、CM、ゲームなどの作詞・作曲・編曲・歌・音楽監督など、幅広く活動。2018年にデビュー45周年の『小坂明子 オリジナルアルバム・コレクション』を発売。
取材・文/北武司
※女性セブン2021年5月20・28日号