臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、ワクチン接種の対応に出遅れ、ちぐはぐさも目立つ政府の新型コロナウイルス対策について。
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「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えというのか。このままじゃ、政治に殺される」。5月11日に掲載された宝島社の新聞広告は衝撃的だった。
朝日、読売、日本経済新聞の朝刊の全面広告には、戦時下にタケヤリ訓練を行う少女たちの真ん中に、日の丸のように真っ赤なウイルスが置かれている。賛否両論はあるだろうが、これを見ていると、日本は日の出国というよりウイルスに翻弄されている国に思えてくる。
高齢者がワクチン接種を予約しようにも電話はつながらず、全国各地の予約システムはダウン、窓口は長蛇の列だ。PCR検査数は他国と比較してあまりに少なく、未だに本当の感染者数も分からないまま。悲鳴を上げている飲食店は時短営業に加えて酒類の提供も禁止され、一方で公園などには路上飲みの対策として進入禁止のフェンスが設置された。さらに、イベントや興業は開催も集客も可能なのに、鑑賞するだけの映画館は営業自粛。なんだかちぐはぐなことばかりだ。
それでも政府は国民に対し、ここまで自粛してきたのだからもう少し我慢してくれとお願いばかり続ける。やってきたことを無駄にするなと言わんばかりだ。国民の側にもあるだろう「ここまでやってきたのだから、もう少し辛抱すれば」という「サンク・コスト」の心理的傾向を利用する。だが今のままでは、政府の言う通り我慢をしていても、一向に救われる日も明るい未来も見えてこない。“政治に殺される”、日を追うごとにその思いが強くなる。
12日夜、菅義偉首相が記者団の前で述べた言葉からもそう感じた。東京、大阪など4都府県に発出していた緊急事態宣言は今月末まで延長され、愛知県と福岡県にも発令されたことを受け、首相は暗い表情のまま、こう言った。
「延長は大変心苦しい思いでありますけど、ゴールデンウィークが終わった今、一番大事な時期でありますので、国民の皆さんのご協力をお願い申し上げます」
“一番大事な時期”とは、何に対してなのかと考えれば言わずもがな、東京オリンピックの開催だろう。緊急事態宣言では中途半端な対策ばかり、政府の覚悟も本気度も見えてこないのだから、そう思いたくもなる。