ライフ

作家・千早茜氏「人は人と違うことが当たり前」新作『ひきなみ』を語る

千早茜氏が新作を語る

千早茜氏が新作を語る

【著者インタビュー】千早茜氏/『ひきなみ』/KADOKAWA/1760円

 主人公は小6の春、「7月に必ず迎えに来る」という母の言葉を信じ、瀬戸内海〈香口島〉の祖父母の家で暮らし始めた私、〈桑田葉〉。東京育ちの彼女が、隣の〈亀島〉に訳あって祖父と暮らす〈真以〉と出会い、島特有の文化や因習の中で友情を育む第1部「海」と、約20年後、東京の大手企業に入社し、上司らのハラスメントに日々疲弊する葉が、真以の消息を知る「陸」の2部構成から、千早茜氏の新作『ひきなみ』は成る。

 表題は、船の航跡のこと。その美しさが陽光にひと際映える瀬戸内を舞台に選び、「大のレモン好き!」でもある著者には、初著書『魚神』以来、「閉鎖空間を描きたい」という衝動が本能的にあったという。

「元々限られた空間を濃密に描く、ねちっこい描写が好きなんです(笑い)」

 性別、偏見、過去やしがらみなど、人は何かに縛られ、不条理に苛まれた時、従来は「逃げる」「耐える」「闘う」くらいしか選択肢を持てずにいた気もする。本作はそれとは違う動詞を葉や真以が自分なりに探す、自由獲得の物語でもあった。

「私ですか? 子供の頃は真以と同様、闘う派でした。特に幼少期を過ごしたアフリカから戻った転校先が鹿児島で、男尊女卑に毒された男子が私をからかうためにアフリカ踊りまで開発して。馬鹿だなと思いました。私は私でゴミ箱片手に反撃していたので、偉そうに言えませんけど、人としてあり得ないと思う」

 そう。葉の紹介も兼ねた〈寄合〉の席上、母が持たせた携帯電話を男子が奪い、勝手に弄るのを見て、卓上のご馳走を蹴散らし、瞬く間に取り返してくれたのが真以だった。当然皿は割れ、〈女にぶたれて泣くな〉と叱る怒声などで場は騒然としたが、そもそも寄合では男女の間に見えない一線が引かれ、座敷も別々。その二間を貫くテーブルの上を敢然と駆け抜けた真以は、掟破りの越境者ともいえた。

「今回は女性同士の距離感のある友情を描いてみたかったんです。例えば女同士のドロドロを書いてほしいという依頼は多いのに、男同士の嫉妬に関する依頼はゼロ。女同士の友情ってつくづく信じられてないんだと感じました。でも別に爽やかな友情は男性限定ではないし、こういう女性同士の関係もあるんだという辺りを書いてみたいと思いました」

 島へと渡る高速船上、水しぶきの中に虹を見つけ、はしゃぐ葉に対し、真以はもっと遠くを見つめていたのか、小さく頷き、微笑むだけの出会いの場面がいい。が、港で葉を迎えた祖母は〈桐生さんとこの〉〈いなげな子じゃけえ〉と呟き、葉はその初めて聞く方言に〈あんまりいい感じはしなかった〉〈自分たちとは違う、そう線をひくような言葉な気がした〉と直感的に思う。

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン