〈男性は生まれつき、女性に顔色を窺ってもらうことに慣れているのだ〉と父や梶原に対して諦めを常としてきた葉は、今なお世間が事件を忘れてはくれない中、自らアクセサリーブランドを立ち上げた真以と再会し、〈誰かの目に晒されない自分〉を持ちたいと思った。真以は言う。〈逃げて選んだものは選ばせられたもの〉〈手を動かして、自分がきれいだと思うかたちを作っているときは、逃げて選んでいるかたちはひとつもない〉と。
「私は別にシスターフッド小説を書いたつもりはなく、男も女も同じ人間は誰ひとりいない以上、各々が可能な限り自分でいて、人数分違っていけば、いろんな生き方が肯定されるはずだと。つまり人は人と違うことが当たり前で、それが前提になれば、この世界はだいぶ楽しくなると思うんです」
そんな各々の生きた航跡を、どんな形であれ肯定し、かつ、書きすぎない小説だ。
「もっと明確な答えを示せればよかったんですけどね。現状では『手を動かす』と『生き抜く』、そして『食べる』くらいです(笑い)」
むろん全て主語は自分だ。
【プロフィール】
千早茜(ちはや・あかね)/1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒。父の仕事の都合で小学生時代の大半をアフリカ・ザンビアで過ごす。2008年『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。翌年同作で第37回泉鏡花文学賞、2013年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞、2021年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞。『男ともだち』『クローゼット』『さんかく』等の他、尾崎世界観氏との共著『犬も食わない』やエッセイ『わるい食べもの』も人気。151cm、B型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2021年5月28日号