その配信者たちは一般人で、特に何をするわけでもなく、日常生活をただ見せているだけ、とりとめもないおしゃべりをするだけという人も多い。いわゆる「映える」ような工夫も少ない。それだけでも理由がわからないのに、そこへ投げ銭をする側も特に裕福というわけではなく、一般の大学生なども混じっている。そのような人たちは、なぜ投げ銭するのだろうか。
そういった「普通の」配信者に投げ銭をした大学生にきっかけを聞くと「たまたまあるVTuberが配信しているのを視聴した。有名でもないし、それまで知らなかった。でも、入ったときにIDを呼んでくれた。それではまってしまって」と言う。
「翌日も視聴したら、『今日も来てくれたんだ、嬉しい』と喜ばれた。それから毎日通っている」。大学もすべてオンライン授業となる中、画面越しとはいえ、貴重なリアルコミュニケーションができる場となっているそうだ。
そして「見に来ている人たちもいい人たちばかりで、就活の相談をしたこともある。みんなが応援してくれて嬉しかった」と続けた。このように同じ配信者が好きな仲間ができたり、居場所となっている人もいるようだ。
過剰な投げ銭や過激な配信が問題に
苦境の業界の救世主的存在となりつつある投げ銭機能だが、一方で問題も起きている。投げ銭は支援者に支払うという意味合いが強いため、支援者側は課金額に応じた対価を求めることが多くなる。中には配信者に対して脅迫まがいのお願いをする支援者もいる他、配信者側も投げ銭によって言いなりになってしまう例があるため、行動の過激化も指摘されている。
たとえばロシアでは、18歳少年を含む複数の男が女性に対して性暴力を働く様子をYouTubeで配信、投げ銭を集めて訴えられている。また同じく投げ銭が人気の中国では、高濃度のアルコールを一気飲みする動画を配信する配信者が次々現れ、なかには死亡事故へと繋がったこともあるなど問題視されている。
投げ銭市場が1000億元(約1兆5000億円)超規模という試算もある中国では、金銭面でも社会問題となりつつある。たとえば、湖北省の9歳女児が10万元(約150万円)を投げ銭して保護者が返金を求めた例や、学費を使い込んでしまう例もあり、未成年や若者が配信に過剰に投げ銭につぎ込んでしまうのだ。こういった事例が起きないように、中国では運営企業に対して配信者や視聴者の実名管理を求める通知を出している。日本でも他人事ではないだろう。
このように課題は多いが、投げ銭によって好きなクリエイターや業界を支援したり、交流することができるというのは、SNSの良さを生かした新機能なのは間違いない。新型コロナウイルスの感染拡大によって急拡大した面はあるが、それがなくとも遠からず定着したのではないだろうか。なにしろ、自分の善意が直接、反映される実感が得られるのだから。