『空母いぶき』の舞台挨拶で笑顔を見せた西島秀俊
世間一般から見れば“干された”というようにも映ったかもしれないが、むしろ仕事を選ぶことで西島秀俊という役者が誕生した。そもそも彼は膨大な映画を浴びるように鑑賞し、表現や作品に対して強いこだわりも持っていたという。
「もともと、子どもの頃から映画に憧れがあり、映画を数多く鑑賞し、古今東西のタイトルに通じているほどシネフィルな西島にとって、この時期の人気俳優としての一時的な脱落は、後のことを考えれば良い流れだったと考えられます。作家性の強い監督たちとの仕事に落ち着いて取り組めたことが、本人の役者としての成長を促し、周囲の状況を良い方向に変化させることになったといえるでしょう。
年齢のことを考えても、アイドル的な人気俳優からの脱皮は正解だったといえます。もう若手とはいえない、30代から40代にかけては、大人の男の魅力を発揮して、よりリアリティのある演技と、ストイックに鍛え上げた肉体で幅広い役をこなし、多くのテレビドラマでそれまで以上の西島フィーバーを起こすことになります」
もちろん、一時的に表舞台から遠ざかる役者は西島秀俊だけではない。だが彼の場合ユニークなのは、それがテレビで人気を得るための単なる“充電期間”ではなかったという点だ。そのことは、テレビに復帰してからも、相変わらず作家性の強い映画作品に出演し続ける西島の姿勢からもうかがえる。
「商業的な作品を含めて幅広く出演するようになったとはいえ、作家的な映画への出演も継続しています。イランのアミール・ナデリ監督の『CUT』(2011年)では、本人のイメージと近いシネフィルの主人公を演じ、何度殴られても数々の映画作品への愛によって耐え抜くという、本人を象徴するような役柄が印象的でした。
俳優として人気があればあるほど、映画鑑賞をするような時間が削られるジレンマがあることを考えると、西島ほど映画自体に強い愛情やこだわりがあり、作品への確かな目を持った人気俳優という存在は希少だといえます。その能力は、出演作品選びにも役立っているはずです」