もちろん、大学生にとって歴史や地理、文学、芸術などの基礎分野を横断的に学ぶリベラルアーツ(一般教養)や、答えのない問題に答えを導き出すロジカルシンキング(論理的思考)は必須である。
だが、21世紀の教育の基本はあくまでも理系であり、それは性別に関係ない。「リケジョ」などという言葉は差別用語であり、死語にすべきである。21世紀は誰もが理系にならねばならないのだ。ところが、この問題の深刻さに、まだ日本は全く気づいていない。
さらに日本の場合、理系に進んだ高校生の3分の1が大学の理工学部に推薦入学している。このため、高校3年時に推薦入学が決まると勉強しなくなり、大学で最も大切な微分・積分などをしっかり学んでいないので、そのレベルからの再教育が必要になっている。
かてて加えて、日本の大学生は語学(コンピューター言語と英語)が貧弱極まりない。こうした「理系」と「語学」に対する教育の違いによって、日本の大学生は台湾やイスラエルの大学生に比べると能力に圧倒的な差がついている。人材の差は国力の差にほかならないから、このままでは日本はますます世界の成長から取り残されるだろう。こうした認識に立って、今すぐにでも抜本的な教育改革に舵を切るべきなのだ。
今日の台湾の経済成長は、国家戦略として意識的に取り組んできた結果というよりも、中国の脅威に備えて生き残るために必死でやってきたことが成功につながった面が大きい。
それでも、新型コロナウイルス禍に対する台湾の迅速でデジタル化した対応は、日本の比ではない。理系を軽んじがちで語学教育も中途半端な日本は、かつての植民地ながら今や世界で活躍する人材を育てている台湾に真摯に学ぶべきである。まさに日本は今、危機的状況にあるのだから。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年6月11日号