息子が入門したことによる難しさもあった。
「稽古場では親方が自分の息子もほかの弟子も平等に指導すればいいのですが、生活面は平等じゃダメなんです。他の力士と同じように扱えば、“えこひいき”していると思われてしまう。だから、預かっている子たちが病気やケガをした時は病院まで車で送っても、我が子の時は病院に連絡だけして、ひとりでタクシーで行かせました。親方もとりわけ厳しく叱ったり、鉄拳を食らわせたりするのは我が子と決めていた。
部屋でイジメなどを見たら教えてほしいと他の力士たちに頼んでいましたが、そういうこともこっそりやらないと“親方の息子が告げ口した”と思われてしまいます。すごく難しかったが、うちの親方自身が若い頃、“師匠の弟”だからとやっかまれて、土俵でのかわいがりや砂を食べさせられるといったイジメを受けていたので、そういうのは絶対になくしたかった。健全なライバル関係があったからこそ、強い関取がたくさん育ったんだと思います」(紀子さん)
最強のガチンコ集団が幕内上位を席巻し、90年代前半の空前の相撲ブームへとつながった。
※週刊ポスト2021年6月11日号