国内

大前研一氏 コロナ終息前の緊急事態条項議論は「動機が不純で危険」

憲法改正のあり方をどう考えるか?(イラスト/井川泰年)

憲法改正のあり方をどう考えるか?(イラスト/井川泰年)

 新型コロナウイルスの対応をめぐり、日本は都市封鎖などの強い措置をとることができなかった。その理由について「日本国憲法が邪魔をしているからだ」と主張する人たちがいるが、果たしてそれは「失敗の本質」だと言えるのだろうか? 経営コンサルタントの大前研一氏が、憲法改正のあり方について考える。

 * * *
 憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案が、今国会で成立する見通しとなった(本稿執筆時点)。

 改正案は、公職選挙法の規定に合わせて、改憲手続きに関する国民投票にも、駅や大型商業施設などに共通投票所を設置するといった7項目を適用するというものだ。これが成立すれば、自民党はさっそく改憲論議に着手したい考えだと報じられているが、何をどう改正するのかという具体的な議論はまだ進んでいない。

 とりあえず今後の争点は、懸案の第9条に加え、憲法に緊急事態条項を設けるかどうかになると思われる。とくに新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中で、パンデミック(感染症の世界的大流行)を含む大災害が起きた時は政府の権限を一時的に強化して欧米のようにロックダウンなどの指示・命令を可能にする緊急事態条項が注目されている。最近の世論調査でも、同条項を創設することについて、「賛成」の割合が増える傾向にある。

 だが、そういう雰囲気の中で改憲議論を始めると、危機対応にばかり焦点が当たり、あっさり成立してしまうかもしれない。その結果、政府は同条項を他の問題に対しても野放図に使い始め、まるで戦前・戦中の「国家総動員法(※1938年に公布・制定された法律。日中戦争の長期化による国家総力戦の遂行のため、国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できると規定した)」に通じるような経済統制や私権の制限にまで踏み込みかねない、という危惧がある。

 大災害に対応するために政府の権限を強化すべきという主張は正論のようだが、新型コロナ禍が終息していない状況で緊急事態条項の議論を始めるのは、動機が不純で危険だと私は思う。

 そもそも現行法制の下でも、厚生労働省が指導力を発揮し、世界の大学や研究機関、企業などと情報交換しながら最善策を講じていれば、もっと迅速かつ適切に感染を抑制してワクチン接種体制を作ることはできたはずである。なぜそれができなかったのか、という反省も検証もしないで、ただ緊急事態条項を設ければ強力で効果的な対応ができるようになると考えるのは間違いだ。まず「失敗の本質」を究明すべきである。

改憲すなら行政にメスを

 そもそも、厚労省がありながら、なぜ河野ワクチン接種推進担当相や西村康稔新型コロナウイルス対策担当相が必要なのか? 結局、新たな問題が起きるたびにその担当相や“看板庁”を設置して「やってる感」を出しているにすぎない。

 新型コロナ対策も、本来なら厚労省が責任をもってやればよいのに、2人の担当相が間に入っていることで、行政に二重三重の無駄・非効率が生じている。屋上屋を架すならまだしも、横にちょこんと張り出したような建て付けで、役割分担も責任の所在も不明確だ。

 現在の統治機構は「橋本行革」で複数の省庁を束ねて役所の数を減らしたと言いながら、実際は名ばかり改革で単なる役所の引っ越しにすぎず、役人の数は変わらなかった。厚労省(厚生省+労働省)、国土交通省(国土省+運輸省)、総務省(自治省+郵政省+総務庁)など、一つの役所の図体が大きくなっただけである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

この日は友人とワインバルを訪れていた
《「日本人ファースト」への発言が物議》「私も覚悟持ってしゃべるわよ」TBS報道の顔・山本恵里伽アナ“インスタ大荒れ”“トシちゃん発言”でも揺るがない〈芯の強さ〉
NEWSポストセブン
亡くなった三浦春馬さんと「みたままつり」の提灯
《三浦春馬が今年も靖国に》『永遠の0』から続く縁…“春友”が灯す数多くの提灯と広がる思い「生きた証を風化させない」
NEWSポストセブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《産後とは思えない》真美子さん「背中がざっくり開いたドレスの着こなし」は努力の賜物…目撃されていた「白パーカー私服での外出姿」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこ(45)の自宅マンションで身元不明の遺体が見つかってから2週間が経とうとしている(Instagram/ブログより)
《遠野なぎこ宅で遺体発見》“特殊清掃のリアル”を専門家が明かす 自宅はエアコンがついておらず、昼間は40℃近くに…「熱中症で死亡した場合は大変です」
NEWSポストセブン
俳優やMCなど幅広い活躍をみせる松下奈緒
《相葉雅紀がトイレに入っていたら“ゴンゴンゴン”…》松下奈緒、共演者たちが明かした意外な素顔 MC、俳優として幅広い活躍ぶり、174cmの高身長も“強み”に
NEWSポストセブン
和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんの「冬のホーム」が観光地化の危機
《白パーカー私服姿とは異なり…》真美子さんが1年ぶりにレッドカーペット登場、注目される“ラグジュアリーなパンツドレス姿”【大谷翔平がオールスターゲーム出場】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン