一方で、新たな担当相として、「まち・ひと・しごと創生」「一億総活躍」「女性活躍」「働き方改革」「国土強靱化」「孤独・孤立対策」などが次々に任命され(その多くは兼務だが)、“看板庁”も、「デジタル庁」に続いて「子ども庁」の創設が検討されている。この国の役所は肥大化する一方だ。
こうした行政府の組織運営の問題の根源は、まさに日本国憲法にある。現行憲法は統治機構や地方の権限に関する条項が少ないので、改憲するならそこにメスを入れ、統治機構を21世紀の社会に対応できるよう、きちんと規定すべきなのだ。
たとえば、新型コロナ対策では、地方自治体が国に対して次々と緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令を要請した。その理由は、飲食店などに休業や営業時間短縮などを要請すると補償のための財源が必要になり、国に頼らざるを得ないからである。
つまり、今の地方自治体は自治のための権限も財源もなく、単なる国の出先機関でしかないのだ。日本の場合、「地方自治」は画餅にすぎないのである。
そうした根本的な問題点も理解せず、その場しのぎの的外れな新型コロナ対策を続けている政府の権限を緊急事態条項で強化したら、ますます無駄で非効率な政策が増えるだけである。
私は30年以上前から「改憲ではなく時代に合った憲法をゼロから起案(=創憲)すべき」と主張してきた。2016年に上梓した『君は憲法第8章を読んだか』(小学館)では、まず「地方自治」について定めた第8章を大幅に書き直して国の組織運営体系を中央集権から真の地方自治に変えなければならない、と述べた。しかし、いま俎上に載っている改憲論議や自民党の草案に、そうした問題意識は微塵もない。そんな改憲など、やるだけ無駄である。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号