ライフ

徳川慶喜はなぜ敵役になったのか 情けを知らぬ「独公」の強さと弱さ

ナポレオン3世から贈られたとされる軍服を着た慶喜(茨城県立歴史館所蔵/時事通信フォト)

ナポレオン3世から贈られたとされる軍服を着た徳川慶喜(茨城県立歴史館所蔵/時事通信フォト)

 徳川慶喜についての一般的な認識は、「徳川15代目、最後の将軍」「大政奉還をした人」の2つではないだろうか。それを思うと、放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』で草なぎ剛が好演する徳川慶喜は、幼少時から英邁と評判で決断力がある意外な姿に見えているかもしれない。ただ一方で、鳥羽伏見の戦いで敵前逃亡した「臆病者」という誹りを受け、歴史的には評価の分かれる人物だった。大政奉還という歴史の転換点をつくりながら、なぜ彼は敵役になり果てたのか、歴史学者の家近良樹氏が解説する。

 * * *
 安政5年(1858年)に幕府がアメリカをはじめ5か国と結んだ通商条約は朝廷の勅許を得られていなかった。慶応元年(1865年)10月4日、開国派の慶喜と攘夷派の公卿が出席した朝議(朝廷での評議)は懸案だったその条約勅許問題を巡って紛糾し、夜も更けた。そこで公卿たちが散会しようとすると、慶喜がこう畳みかけて凄んだ。

「このままでは許さない。勅許を得られないなら自分は自決する。その場合、自分の家臣が何をしでかすかわからない」

 その恫喝に公卿たちは震え上がり、ついに条約勅許が得られることになった。

 続く重要課題となった兵庫開港問題でも慶応3年5月の朝議で熱弁を振るい、勅許を獲得。元服前から英邁を謳われていた上に、幕末の政治の中心・京都で政治的経験を積み、権謀術数にも長けていた彼の能力は突出していた。

「独公」「独橋」「独木公」と仇名されたように、慶喜は臣下や周囲に相談することなく独断で重要な決断を下す孤高な将軍だった。それゆえに決断できたのが、幕末政治史上最大の出来事といえる大政奉還である。慶喜という個性でなければできなかっただろう。

 そんな慶喜に不思議なほど欠けていたものがあった。幕臣や民衆への関心、配慮、思いやりといったものが見られなかったのである。

 幕府から朝廷に政治を返上すれば、当然のことながら多くの幕臣が失職する。だが大政奉還を決断するにあたり、慶喜が幕臣の気持ちや生活のことで思い悩んだり、配慮したりした痕跡は見つからない。

民衆の反感を招いた「征夷しない大将軍」

 鳥羽・伏見の戦いにおける「敵前逃亡」は新政府軍と戦うことで朝敵となる事態を避けるためだった、と解釈するのが妥当だろう。江戸に着いた慶喜が隠居の意思を表明し、実際に謹慎生活を始めたのも同じ理由からだ。

 だが「敵前逃亡」が慶喜の評価を大きく下げたことは事実だ。それによって多くの部下を見殺しにしたことは、一軍の将として許される行為ではなかった。それに謹慎は新政府への恭順を示すことにはなったが、旧幕臣の慰撫という大切な役割を事実上放棄したことにもなる。

 戊辰戦争終結直後、徳川宗家は70万石を与えられ静岡藩となった(相続者は徳川家達)。800万石からの転落である。かつての臣下は生活に困窮したが、彼らが訪ねてきても慶喜は会おうとせず、「貴人、情けを知らず」と非難された。

関連記事

トピックス

無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
Instagramにはツーショットが投稿されていた
《女優・中山美穂さんが芸人の浜田雅功にアドバイス求めた理由》ドラマ『もしも願いが叶うなら』プロデューサーが見た「台本3ページ長セリフ」の緊迫
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
スポーツアナ時代の激闘の日々を振り返る(左から中井美穂アナ、関谷亜矢子アナ、安藤幸代アナ)
《中井美穂アナ×関谷亜矢子アナ×安藤幸代アナ》女性スポーツアナが振り返る“男性社会”での日々「素人っぽさがウケる時代」「カメラマンが私の頭を三脚代わりに…」
週刊ポスト
NBAロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦した大谷翔平と真美子さん(NBA Japan公式Xより)
《大谷翔平がバスケ観戦デート》「話しやすい人だ…」真美子さん兄からも好印象 “LINEグループ”を活用して深まる交流
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「服装がオードリー・ヘプバーンのパクリだ」尹錫悦大統領の美人妻・金建希氏の存在が政権のアキレス腱に 「韓国を整形の国だと広報するのか」との批判も
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《私には帰る場所がない》ライブ前の入浴中に突然...中山美穂さん(享年54)が母子家庭で過ごした知られざる幼少期「台所の砂糖を食べて空腹をしのいだ」
NEWSポストセブン
亡くなった小倉智昭さん(時事通信フォト)
《小倉智昭さん死去》「でも結婚できてよかった」溺愛した菊川怜の離婚を見届け天国へ、“芸能界の父”失い憔悴「もっと一緒にいて欲しかった」
NEWSポストセブン