衆院厚生労働委員会で答弁する政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(左)。右は田村憲久厚生労働相=6月9日、国会内(時事通信フォト)
コロナ禍なんてへっちゃらな”パリピ”がオリンピックだウェーイと万単位で集結する恐怖。ましてパブリックビューイングの予定開催期間は長く、オリンピック期間の7月23日から8月8日の11:00~18:00とパラリンピック期間の8月24日から9月5日の同時刻を予定している。こんな長い期間にパブリックビューイングを強行するわけで、ある意味被害者の武蔵野市が中止を要望するのは当たり前の話である。逆に三鷹市は中止を求めていない(6月10日時点)。この辺、自治体の力の差もあるのだろう。
「でも三鷹(市)は責められないよ。吉祥寺だって一枚岩じゃない。店はどこも苦しいからね、たくさんお客さんが来てくれるからって歓迎してる店もある」
集客が見込めるなら歓迎する店があるのもまた当然の話――店主の飲食店のことではないが、この吉祥寺にも、要請を無視して酒を出している店はある。時短をのらりくらりと守っていない店もある。6月1日以降、吉祥寺に限らず日本中の声なき声が無言の抗議を日常行動で示している。野外を出歩くな、酒飲むなというくせにオリンピックは、パブリックビューイングは安全なんて、誰が納得するか。
「ほんとオリンピックなんて迷惑だよ、他人のメダルなんてどうでもいいよ」」
日本人はオリンピック大好き、日本はメダル何個なんて昭和、平成までは嬉々としていたはずが、今回の件でこれほどまでに悪役となるとは――それどころか、オリンピック選手までがネット上では叩かれている。池江璃花子選手などまったくかわいそうで、いいように利用されて令和の円谷幸吉である。”連中”は金のためなら一般国民どころかアスリートのこともなんとも思っていない。思うようにタダ働きのボランティアが集まらない(それも一般国民のせいらしい)からと何万人も派遣のバイトを雇い、それで潤う中間搾取の”寄生虫”も蠢いている。まさに2020年東京オリンピックとは一般国民の命と、労働者の賃金と、地域の安全をピンハネするためだけにあるボッタクリンピックである。
「代々木(代々木公園、パブリックビューイングは中止)は人なんかほとんど住んでないけど、吉祥寺は住宅街でもあるからさ、ほんと困るんだよ」
関係無いと思っている地域の人も油断は禁物、日本全国の250カ所以上(!)でパブリックビューイングは予定されている。代理店や派遣屋は大喜びだろうが埼玉県、そして千葉県はいち早く中止を決断したが、多くの地域が財政規模の大きい埼玉や千葉のように反対はできないだろう。それほどまでにオリンピック開催に向けた「一億玉砕火の玉」を掲げる政府やその周辺の”寄生虫”どもは本気だ。
「でも嬉しいのは(武蔵野)市が中止を訴えたことだね。やっぱりいい街だよ」
中止を要請した武蔵野市、本当に勇気ある行動だと思う。同じく中止を決めた埼玉県と千葉県も同じく勇気のいる決断だったに違いない。6月10日未明、ついに東京都も井の頭公園を含む都内全てのパブリックビューイングを中止する方向となった。勇気を出して声を上げたからこそ、声を上げなければ何も変わらない。一般国民にとって、このオリンピックに関しては右だの左だのといった政治信条に関係なく、人の命と安全の問題だ。翻ってそれは、自分自身の命と安全の問題でもある。
いまだ遅れるワクチン接種と、あからさまにオリンピックを見越して解除されようとしている緊急事態宣言、その上でオリンピックの強行と不要不急の応援大会を各地で実施しようとする国に、いよいよ一般国民どころか自治体も愛想を尽かそうとしている。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近刊『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。