近著に『こんなに怖いコロナウイルス 心の病』(かや書房)などの著書がある精神科医の和田秀樹氏はこう指摘する。
「精神科医として言えるのは、現時点での定説を疑う態度は重要ですし、いろいろな事象についていろいろな可能性が考えられるのは、むしろメンタルヘルスに良いということです。対応としては、あくまで『相手の主張が正しい可能性はゼロでないが、ほかの可能性もある』というスタンスで接することです。そのように普段からいろいろな可能性を考える習慣をつけておくと、自分も陰謀論にはまるリスクが低減すると言えるでしょう」
ただ、あまりに荒唐無稽な主張をしているようだと、メンタルに不調を抱えている可能性も存在するという。和田氏が続ける。
「『電磁波がコロナを拡散している』『ドナルド・トランプが日本人ひとりにつき6億円ずつ配る』というように、ほぼありえない情報を信じている場合は注意が必要です。これを精神医学の考え方では『了解可能性』と言うのですが、通常の感覚で了解できないようなレベルの陰謀論を信じているようだと、それは妄想に近いということになってしまいます。
もうひとつ、どの程度その情報を信じているかもポイントです。(そうではない)ほかの可能性が考えられない(ほど信じている)とすれば、やはり妄想に近いものと考えられます。陰謀論を主張する相手にこれらの条件が当てはまっていれば、精神科医に見てもらったほうがいいかもしれません。
『精神科にかかったほうがいい』と言われて逆上する人も出てくるでしょう。本人としては妄想レベルの思い込みを完全に信じているので、自分が病気と思う人は少ないです。身内や会社の同僚など、治療してもらわないと問題が生じる相手を除けば、もう妄想は治らないものと割り切って接し、否定するよりさりげなく話題を変えるというのが、相手がエスカレートするのを防ぐために無難な対応と言えます」(和田氏)
正論をぶつければ、相手が目を覚ますとは限らず、むしろ関係性がただ悪化するだけの結果にもなりかねない。身近な人間の発言に違和感を覚えたときは、自分ひとりで対応するのではなく、早めに専門家にアドバイスを求めたほうがよさそうだ。
●取材・文/原田イチボ(HEW)