緊急事態宣言解除後に「まん延防止等重点措置」へ移行するにあたり酒類提供の対策基準を「19次まで」「90分以内」「2人まで」と示す小池百合子都知事(時事通信フォト)
少し前までは「自粛すべし」という世論からの圧力だったのが、今では「闇営業をすべし」という同業者からの圧力に変わっている、ということのようだが、圧力は「外圧」だけではない。
「まるまる一年半、時短営業や休業ばかりで店の売り上げは平時の3割程度。それでも、社会に背を向けるようなことだけはやりたくないという思いでやってきたんです」
千葉県内で居酒屋を経営する高田昭一さん(仮名・50代)は、最近になって近隣店舗が「闇営業」に踏み切っても、頑なにアルコール提供の自粛や時短営業を守ってきた。では、やはり同業者からの嫌味や圧力があったのか、と聞くと、圧力をかけてきたのは、高田さんが愛する家族からだった。
「感染が怖いとあれだけ言っていた妻が、もう闇営業するしかないでしょうと泣いて訴えてきました。確かに貯金も底をつき、補償金や協力金は従業員にも回して、それも底をつきます。客足だって、他店に遅れをとっていれば確実に離れてしまう。一応、自分なりの美学があってなんとか踏みとどまってきましたが、最後は娘や息子まで出てきて『親父、闇でもなんでもいいから店をやって』と言われてしまった」(高田さん)
何よりも大切な家族を守るため、時短営業や休業を受け入れてきたはずなのだが、当の家族が「闇営業」を懇願してくるのだからたまらない。
「闇営業をするなら、その期間は家に帰らないと決めました。もちろん従業員やバイトさんだって、(アルコール提供をすることでの)感染の危険性が高いと言われる以上、お店にきてもらうわけにはいかない。現在は仕込みや接客までを家族でだけでやって、私は店の近くのビジネスホテルやカプセルホテルで寝泊まりする日々です。これがいいことなのか悪いことなのか、家族の顔を見るとわからなくなってきました」(高田さん)
日本だけでなく世界中の人たちがこのコロナ禍を通じて「何が正しいのかわからない」という思いを抱いていることだろう。その時々の世論や空気感によって、正しいのか間違っているのかもわからない「決定」がなされ、市民も国民もそれに追従するしかなく、少なからず「自分の頭で考えた」人々の行動は、それに反対する勢力によって晒しあげられる。
コロナはワクチンである程度は対処する道が見えてくるかもしれないが、こうした負の空気を浄化することはない。皆が生きづらさを感じる重苦しい空気は、コロナ後の世界にも存在し続けるに違いないだろう。