ライフ

津村記久子さん 小説の舞台を「一番おもんない住宅地」にした理由

aa

「1日に1世帯ずつ、昨日とは違う家族を10世帯ぶん考えた」と話す津村さん

【著者インタビュー】津村記久子さん/『つまらない住宅地のすべての家』/双葉社/1760円

【本の内容】
〈×月×日に××県女子刑務所を脱走した逃走中の受刑者が、隣の市で目撃されたため、近所まで来ている可能性が高い〉──テレビで、新聞で、警察からの「犯罪注意情報」で、口の端にのぼる逃亡犯のニュース。そして「つまらない住宅地」で自衛団結成の話が持ち上がる。これまで挨拶程度だった住宅地の住民たちは、夜警を行うように。逃亡犯の行方、それぞれの家族の事情が絡み合っていく。

1日1世帯ずつ、昨日とは違う家族をつくっていた

 小説の舞台が、いかにもいわくありげな土地ではなく、「つまらない住宅地」に設定されていることにまず興味をひかれる。

「『ディス・イズ・ザ・デイ』という、サッカーのJ2のいろんなチームを小説に書くときに、取材で日本中をあちこち回ったんです。どこも面白くて、面白いところを書き過ぎたから、じゃあ次は『つまらないところ』を書こうかなと(笑い)。どことは言えませんけど、自分が知っている一番おもんない住宅地をモデルにしています」(津村さん・以下同)

 どこにでもありそうな家ばかり並ぶこの住宅地の一角には、行き止まりの道を囲むように10世帯が暮らしている。中学生の息子と父親が2人で暮らす丸川家。夫婦と12歳の息子がいる三橋家。老夫婦2人の笠原家、中年女性がひとりで暮らす山崎家などなど、家族構成や年代はさまざまで、まるで日本の縮図のよう。

「母親が亡くなり、遺品を整理している58歳の山崎さんから考え始めて、1日に1世帯ずつ、昨日とは違う家族というふうにつくっていきました。10世帯ぶん考えたら、それぞれの家がどんなかかわりがあるかまた考えて」

 このつまらない住宅地の住民のあいだに、近県の刑務所から、横領犯の女性が脱走したというニュースが波紋を広げる。横領犯は近隣の出身で、どうやらこのあたりに向かっているらしい。自治会長の丸川の提案で、住民たちはしばらくのあいだ、逃亡犯が逃げ込んでこないよう見張りをたてることになる。

「テレビを見ていると、『〇〇刑務所から受刑者が逃げて△△に向かっているもよう』みたいなニュース速報が流れることがありますよね。それを見ると私は、逃亡犯がどうなるかよりも、『逃げ込まれた側の人は大変やろな』と思うほうで、入り込まれた住民の側の心理をずっと、考えていました」

 逃亡中の横領犯は日置昭子、36歳。学業優秀だったが、父親の工務店が倒産し、高校を卒業すると進学せず就職する。まじめで頭のいい昭子は、なぜ犯罪に手をそめ、いままた脱獄という罪を重ねたのか、住民でなくても知りたくなる。

「マーガレット・ミラーの『まるで天使のような』というミステリが大好きで、その中にかなり重要なキャラクターとして逃亡犯の女性が出てくるんです。彼女は模範囚だけど、脱獄する。その人のことが好きなんですけど、少ししか出てこないので、じゃあ自分でもっと書いてみようと思ったんです」

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
「よだれを垂らして普通の状態ではなかった」レーサム創業者“薬物漬け性パーティー”が露呈した「緊迫の瞬間」〈田中剛容疑者、奥本美穂容疑者、小西木菜容疑者が逮捕〉
NEWSポストセブン
1泊2日の日程で石川県七尾市と志賀町をご訪問(2025年5月19日、撮影/JMPA)
《1泊2日で石川県へ》愛子さま、被災地ご訪問はパンツルック 「ホワイト」と「ブラック」の使い分けで見せた2つの大人コーデ
NEWSポストセブン
男が立てこもっていたアパート
《船橋立てこもり》「長い髪に無精ヒゲの男が…」事件現場アパートに住む住人が語った“緊迫の瞬間”「すぐ家から出て!」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で「虫が大量発生」という新たなトラブルが勃発(写真/読者提供)
《万博で「虫」大量発生…正体は》「キャー!」関西万博に響いた若い女性の悲鳴、専門家が解説する「一度羽化したユスリカの早期駆除は現実的でない」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《美女をあてがうスカウトの“恐ろしい手練手管”》有名国立大学に通う小西木菜容疑者(21)が“薬物漬けパーティー”に堕ちるまで〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者と逮捕〉
NEWSポストセブン
江夏豊氏が認める歴代阪神の名投手は誰か
江夏豊氏が選出する「歴代阪神の名投手10人」 レジェンドから個性派まで…甲子園のヤジに潰されなかった“なにくそという気概”を持った男たち
週刊ポスト
キャンパスライフを楽しむ悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さま、筑波大学で“バドミントンサークルに加入”情報、100人以上所属の大規模なサークルか 「皇室といえばテニス」のイメージが強いなか「異なる競技を自ら選ばれたそうです」と宮内庁担当記者
週刊ポスト
前田健太と早穂夫人(共同通信社)
《私は帰国することになりました》前田健太投手が米国残留を決断…別居中の元女子アナ妻がインスタで明かしていた「夫婦関係」
NEWSポストセブン
子役としても活躍する長男・崇徳くんとの2ショット(事務所提供)
《山田まりやが明かした別居の真相》「紙切れの契約に縛られず、もっと自由でいられるようになるべき」40代で決断した“円満別居”、始めた「シングルマザー支援事業」
NEWSポストセブン
新体操「フェアリージャパン」に何があったのか(時事通信フォト)
《代表選手によるボイコット騒動の真相》新体操「フェアリージャパン」強化本部長がパワハラ指導で厳重注意 男性トレーナーによるセクハラ疑惑も
週刊ポスト
1990年代にグラビアアイドルとしてデビューし、タレント・山田まりや(事務所提供)
《山田まりやが明かした夫との別居》「息子のために、パパとママがお互い前向きでいられるように…」模索し続ける「新しい家族の形」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン