ここでも、村上はべらんめえ口調の江戸弁のセリフ回しだった。
「あれもマネージャーの発想でしたね。
撮影が始まる前にプロデューサーが脚本家と顔合わせの場をセッティングしてくれたんですが、その料亭で提案されたことでした。
そしたら脚本家も『面白いね』と盛り上がって。演じる僕はすっかり蚊帳の外で、ひたすら山海の料理に舌鼓を打つばかりでした。
確かに江戸弁はテンポがいいんですよね。
あの独特のテンポとリズムによって江戸っ子ならではの風情が出る。
『八丁堀~』の青山久蔵は粋人だと皆さんが言ってくれるのですが、あの江戸弁はその粋さを引き出す要因のひとつになりました。
セリフ回しが決まると、所作も雰囲気も自然とそこに合うようにまとまっていくんです。セリフのテンポを掴むのは大事だと思います」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年7月9日号