「隠すから、プライバシーが生まれる」
読書家のサリー楓は、最近の書籍では2020年に黒鳥社から刊行されたメディア美学者・武邑光裕の『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』が面白かったと語る。
「『プライバシー・パラドックス』は面白かったです。本の中で“ポスト・プライバシー理論”について解説があるんですが、ざっくりと説明すると、プライバシーは隠すから生まれるのであって、全員がプライバシーをなくせば問題は起きないんじゃないかといった話なんですね。
例えばサウナって全員が裸なので覗き見が起こりません。同じように情報の流動性を極端に高めれば情報漏洩のリスクも同時に低下するのではないかという議論があって、それはコロナ禍で感染者を追跡するための監視社会化が問題視されている今、とてもホットな議論なんじゃないかと思います」(サリー楓)
初めて知ると荒唐無稽にも思えるかもしれない“ポスト・プライバシー理論”だが、実はLGBT当事者にとっても非当事者にとってもリアルな問題と密接に関わるところがある。サリー楓は続ける。
「映画にも出てきた学生時代のゼミの小林博人先生をとても尊敬していて、節々で示唆的なことを言ってくださる方なんですね。例えば『ジェンダーを乗り越えた経験を活かして、ボーダレスにいろんな人をつないでいく役割が求められているんじゃない?』と私に言ってくれたり。
私がトランスジェンダーをカミングアウトできたのも小林先生のゼミでした。みんなが自分のコンプレックスやネガティヴな側面をさらけ出すことができたら、他の人もさらけ出しやすくなりますよね。そういう“ウェルカミングアウト”な環境がゼミにはあって、ゲイをカミングアウトしている先輩がいたので私も言いやすかったんです。
それはLGBTの問題だけではなくて、例えば職場で育休や産休を取得しやすい環境であったり、悩みを打ち明けやすい環境であったり、誰にでも共通する話なのかなと思っています。ネガティヴなことを隠さないことによって、みんなが隠す必要がなくなっていく。これって“ポスト・プライバシー理論”に通底する発想かもしれません」(サリー楓)