建築とLGBT運動と社会
もしかしたら、LGBTに関する社会の問題について、一部の当事者だけの話だと考えている人もいるのかもしれない。しかし、社会をより良いものにする上であらゆる人々と関わる問題だとサリー楓は強調する。そしてさらに、建築における考え方もこうしたLGBTに関する社会の問題と共通するところがあるという。
「建築計画の勉強ではまず最初に“平均と偏差の違い”を学ぶんですよ。建物は偏差に合わせて作るんです。例えば体の大きい人と小さい人がいたら、大きい人に合わせないといけない。平均を取ってしまうと体の大きい人が入らなくなってしまいますからね。それは階段の寸法とか戸棚の位置とか、いろんなところにも言えます。
言い換えると『一番弱者になる人が誰かということを想定して、そこに合わせて作っていく』ということなんです。これって建築に限らず、社会づくり全般に言えますよね。もちろんLGBT運動における『全てのジェンダーの人たちにとって心地よい社会を作っていく』という価値観とも繋がります」(サリー楓)
LGBTについて考えることは、社会について考えることだ。それは非当事者にとっても身近なところに潜む問題にも通じるところがある。その意味で『息子のままで、女子になる』は“LGBT映画”ではなく、より良い社会を目指すあらゆる人に関わる問題を提起している作品だと言えるだろう。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)