「札束や高級外車、タワマンの写真も販売してました。金持ちに見せかける為の小道具を、我々が有償で貸す。SNSへの投稿や、カモを見つけた時の取り込み方まで指南して、すべてをひっくるめてフルコンプリートパックなどと言って売る。百万円を超えるような金額でも売れました」(K氏)
直前まで被害者だった「偽金持ち」の加害者たちは、SNS上で見つけたカモに直接商材を売りつけることもあれば、彼らの情報を吸い上げリストにして(組織の)上の立場の人に渡すことで小銭を受け取ったり食事をごちそうになったりしていた。ちょうどこの頃から、被害者たちの情報リスト、いわゆる「カモのリスト」の価値が高まったという。
「リストを買うほど、簡単に騙されるバカで貧乏な人たちの情報がどんどん集まるんです。バカが金を持っていれば、何かを売りつければいいし、アポ電話強盗のように奪う対象にしてもいい。貧乏人からは取れないからあきらめる、ではない。貧乏人でもバカなら使い勝手があるんです」(K氏)
K氏は明言こそしなかったが、そうして集められた人々には、犯罪に関わるようなことをさせてカネを稼がせたこともあったことを匂わせた。高額報酬を求めてSNSなどで集められる、特殊詐欺の受け子や出し子はその典型で、貧乏人でも「使いようがある」ということだ。
こうして「騙される人集め」がある種の「仕事」になってきたのと時を同じくして、人の集め方がガラッと変わった。「お金配り」を使った手法が、いっきに広まったのだ。
「某アパレルブランド創業者が始めたお金配りのインパクトはすごかったでしょう? 詐欺師はみんなあれをマネし始めました。あの元社長はお金配りと言っていますが、くじ引きとか宝くじと同じような仕組みで何の前触れもなく当たる、というわけではないことを、みんな知らないのか、知ろうとしないのか……」(K氏)
かの元社長の「お金配り」は、自身がベーシックインカムに向けた実験、と説明しているが、現実に当選した人の属性をよくみると、そうではないことがうかがえる。基本的には何か事業を起こしたい、などといった目標を持った人々に、プレゼントというより「投資している」意味合いが強く反映されているようだ。お金配りを告知したSNS投稿を見ると、「金をくれ」という書き込みが何百件何千件とぶら下がっているが、何度か繰り返されたこの「お金配り」の過程を振り返ると、ただ金がないからほしい、生活が苦しいから欲しいと訴えている人々は、どうやらお金配りの対象ではないことが明確にわかる。かの社長がどれほどの大資産家であろうと、金を捨てるようなことはしないのだ。
だが、いくら「お金が欲しい」というだけでは選ばれない結果が積み重ねられても、応募者は減らない。そのおかげか、K氏が情報商材ビジネス時代に知り合った人々は、景気のいい人身売買業者のようになっていると打ち明ける。
「元社長のおかげで、だまされる人集めがしやすくなりました。大体、SNS上の見ず知らずの人から金をもらえる、と考える人のほうがおかしいんですから」(K氏)
今存在する「お金配り」アカウントを見ると、K氏が現役だった頃と宣伝方法が大きく異なっているという。
「金持ちアピールのためのタワマンや高級外車ではなく、今のトレンドはネットバンキングの口座残高のスクショを乗せることみたいですね。口座残高には何千万とか何億とか記されていて、直近でもいろんな人に100万ずつ振り込んだとかの記録も出てくる。それを見て、みんな騙されちゃうんですよ」(K氏)