阿久悠さん(撮影/稲越功一)
若い世代にも受け継がれる両巨匠が残した名曲たち
デビュー当時の私は歌詞のことは深く考えず、リズムに乗り遅れないように歌っていましたが、転機となったのは『思秋期』(1977年/作曲:三木たかし)です。阿久先生の詞が高校を卒業したばかりの私の心情と一致したんですね。泣けて歌えなくなったのはあの時が初めてでした。
1978年には6作ぶりに阿久先生と筒美先生のコンビが復活して『シンデレラ・ハネムーン』を歌いました。夜遊びしている女の子の歌ですが、いま聴いてもカッコいいディスコサウンド。最近はお笑いコンビのダイノジさんが「音楽配信サービスで岩崎宏美のディスコソングを聴いたら、その凄さがわかる!」とプッシュしてくださっています。
動画サイトに投稿された昔の映像にも若い人から好意的なコメントが寄せられていますし、私の息子たちもカッコよくて好きだと言ってくれる。そういう歌をお二人に作っていただけたのはありがたいことですよね。
筒美先生には2枚のアルバムで全曲を作曲していただきましたが、ロサンゼルス録音の『WISH』(1980年)の時は、現地で先生の40歳のお誕生日をお祝いしました。そのアルバムの1曲『WISHES』(作詞:橋本淳)は、先生のピアノと私の歌だけで同時録音した想い出の作品です。
いつも当たり前のようにレコーディングに立ち会ってくださった両先生ですが、後年、それは特別なことだったと知って、なおのこと感謝の念が強くなりました。
阿久先生は「こう歌いなさい」とおっしゃることは一度もありませんでしたけれども、お亡くなりになる数か月前、ラジオ番組でご一緒した時に「僕は岩崎宏美をどうやって成人させるか、いつも考えていたんだよ」って。そこまで親身に考えてくださっていたのかと、胸が熱くなりました。
筒美先生とは10年ほど前、青山のスポーツクラブでお会いしたのが最後です。2019年に先生の曲で構成したカバーアルバムをリリースした時は「宏美さんらしく、丁寧に歌ってくれて心に沁みた。友人にも聴かせたいから、20枚送ってくれる?」というメッセージをいただけたことが嬉しかったですね。
私も還暦を超えましたが、コロナ禍による自粛期間中に歌への想いが強くなりました。これからも阿久先生・筒美先生の曲を大切に歌い続けていきたいです。
【プロフィール】
岩崎宏美(いわさき・ひろみ)/1958年生まれ、東京都出身。1975年のデビュー以来、『聖母たちのララバイ』(1982年)などヒットを連発。8月は東京・大阪でアコースティックライブを開催する。
取材・文/濱口英樹
※週刊ポスト2021年8月13日号