むし歯治療、詰め物の材料、歯の根の治療……世界標準とこんなに違う
日本では、むし歯の治療からして時代遅れのようです。日本では、むし歯を大きめに削る治療が一般的に行われてきましたが、世界の主流は、可能な限り歯を削る量を少なくするMI(ミニマルインターベンション)治療。
「私は、マイクロスコープという治療用の顕微鏡を見ながら視野を拡大し、削る量を最小限にしています。そうすれば、むし歯治療を繰り返すことで歯が大きく削られ、歯がなくなるということもありません」(堀医師)。
歯の詰め物の材料も、日本の保険診療ではパラジウム合金が使われます。しかし、スウェーデンでは、パラジウム合金はむし歯が再発しやすくアレルギーの原因になることから使用が禁止され、日本で保険適用外のセラミックスが一般的に使われているそうです。
マイクロスコープを使用しての治療風景
また、堀医師は、神経を安易に取らないようにとも警告します。
「日本では、保険で行う治療法の成功率が、世界に比べて低くなっています。初めて根の治療を行った場合のデータによると、アメリカで専門医が神経を取る治療を行った場合、成功率は90%で、これに対し、日本だと60%ぐらいです。また、神経を取らない治療法も世界では行われています。最新のマイクロスコープとMTAセメントという高価なセメントを用い、時間をかけて治療すれば、神経を残せる可能性があります」
プロフェッショナルケアは、3か月に1回が理想的
歯の1本1本を大切な臓器と考えて、自分に合った治療やメンテナンスをしてくれる歯科医院を定期的に受診することを、堀医師は勧めます。
「歯科医師や歯科衛生士によるプロフェッショナルケアは、3か月に1回、1年に4回というサイクルが理想的です。というのも、歯の汚れ(バイオフィルム)は、歯に付着してから3~4か月ぐらい経つと成熟して病原性が高まるといわれているからです。そうなる前に、バイオフィルムをリセットすることが大切です。しかも、この頻度のケアによって、その人の健康に対する意識が変わって、口腔ケアへのモチベーションを保つ効果があることがわかっています」
しかし、日本では、3か月に1回患者さんを診ると、経営が成り立たない仕組みになっているそうです。また、日本のバイオフィルムを取る方法にも、問題点があるようです。
「日本の保険診療では、超音波スケーラーで口の中全体をクリーニングします。これだと、場所によっては数ミクロンという単位ではあるものの歯が削れてしまう。しかし、歯石になっていないバイオフィルムであれば、わずか数ミクロンのアミノ酸の細かい粒子を吹き付けるパウダークリーニングできれいになるし、歯が削られる心配がありません。ただし、この方法には、健康保険が適用されません」
警告だけではなく、ではいまある歯をこれから一本でも長く持たせるのに必要なケアについての啓蒙も、堀医師は積極的に続けていく意志を示します。それらを中学生でも理解できるようにと心を配ってまとめたのが最新の著書『ウイルスも認知症も生きづらいのも、すべて歯のせい?』です。歯のセルフケア、プロフェッショナルケアについて、堀医師の提案の数々が紹介されています。
【プロフィール】
堀 滋(ほり・しげる)/歯科医師。サウラデンタルクリニック院長/1959年生まれ。日本大学松戸歯学部卒業。昭和大学歯学部付属歯科病院口腔外科勤務ののち、日本橋中央歯科診療所などを経て、堀歯科診療所を開設。診療の傍ら、スウェーデンのイエテボリ大学で実践されている歯周病臨床実践コース、同アドバンスコース、ペンシルバニア大学アドバンスインプラントコース受講など、海外の最新治療を学び、治療に取り入れている。2021年、全身の健康につながる医療を追求するため、東京都港区内に自由診療専門のサウラデンタルクリニックを開設。院内には、顔まわりから全身の筋肉ケアのためのリラクゼーションサロンも併設。テレビ朝日『林修の今でしょ!講座』などに出演。著書に『歯のメンテナンス大全 人生100年時代の正しいデンタルケア88のリスト』(飛鳥新社)。