コロナ感染拡大さなかの五輪強行開催で、支持率が急落する菅政権。この後に控える自民党総裁選と解散総選挙という山場を乗り切ることができるのか。亀井静香氏(84)、山崎拓氏(84)、藤井裕久氏(89)、政界の長老3人が長年培った政局観で分析した。
* * *
山崎:ワクチンの普及が進まず感染が急拡大しているという国民世論の認識があるので、菅政権には厳しい状況と言えます。
藤井:五輪を強行しながら、逆にコロナについては非常にルーズな扱いをしている。ワクチンも十分ありますと言っていながら、後から足りませんでしたと言うなど、政策が場当たり的で行き来するばかりです。
そもそも菅さんの国家観というものは、本当はあるんだろうけれど、現状は安倍晋三・前首相のものに乗っかっているんですね。五輪にしても1年延期を決めたのは安倍政権だし、コロナ対策もそう。菅さんは官房長官としてそれにつき従い、いまだに安倍さんの影響下にあるため、自らの国家観を打ち出せないでいます。
亀井:私は彼が横浜市議時代に、港湾土木の大ボスで菅さんの後ろ盾だった藤木幸夫さん(横浜港運協会前会長)から、今度彼が国政に出るので頼むと言われてね、2人で横浜を回ったという深いつながりがあります。だからあんまり批判はしたくないんだけど(笑)。
彼は秋田の農家の出身。私も農家の倅ですから、そういう親近感もあった。彼はあの頃は土の匂いがしていた。これは秀吉もそうですが、人間は天下人になると土の匂いが消えていく。今は秀吉もそうだったようにキンキラキンに魅せられて、いわゆる新自由主義の虜にされた。それと残念なことに彼は、元はそうじゃなかったんだけれど今ではアメリカのポチになり、さらに昔から中国寄りでもある。犬の飼い主が2人いて、飼い主同士が喧嘩している状況だから、右往左往するしかない。
山崎:ただでさえパンデミック下の政治は非常に難しい上に、彼に与えられた任期は1年しかなかった。菅さんとしては総裁選と総選挙を乗り切って、3年という次の任期を得ることでようやく菅流の政権運営を始められるという思いだったが、果たしてその通りにいくかどうか。執行部としては、総選挙を先にやって、自民党が過半数を取ったら総裁選を事実上なしにして、首班指名選挙に臨む。そういう日程を描いていたと思いますが、そのシナリオに狂いが生じていると思う。
亀井:政権支持率が30%近くになり、不支持率が60%を超える状況で、選挙の顔が菅でいけるのかという雰囲気は今、自民党内にダーッと広がっているね。そうなると、先に総裁選をやろうよということになってくる。今は有力な対抗馬がいないけど、自民党の若手の中では総理は限界だと危機感を抱く勢力は相当出てきた。誰かが走り出していったら怒涛の如く、という流れではないか。
山崎:総裁選の選挙管理委員長である野田毅さんはシナリオ通り党員投票をやるという考えのようだ。今この状況で総裁選をすることになれば、それ自体が政局です。その瀬戸際に来ている。
【プロフィール】
亀井静香(かめい・しずか)/1936年生まれ。1979年初当選。国民新党代表、運輸大臣、建設大臣、自民党政調会長などを歴任。
山崎拓(やまさき・たく)/1936年生まれ。1972年初当選。自民党幹事長、党副総裁、防衛庁長官や建設大臣などを歴任。
藤井裕久(ふじい・ひろひさ)/1932年生まれ。1977年初当選。大蔵大臣、財務大臣、民主党代表代行などを歴任。
※週刊ポスト2021年8月20日号