さまざまな取材を重ね、書けない情報もあったという鈴木智彦氏
真鍋:そうですね、取材はしているほうだと思います。でも、取材に限界はあるし、現在進行形のことについては聞いたとしても作品には描かないようにしています。
鈴木:詳細を描いて逮捕者が出たりトラブルになるのは避けたいですもんね。手口がバレて問題になることもあるだろうし。
真鍋:一時期、自分が取材していた人たちがどんどん捕まって、偶然だったんですけど、私がチンコロ(密告)しているんじゃないかって噂まで流れて、それは避けようと思うようになりました。
鈴木:『ウシジマくん』はとくにカネの話だったからシノギ(資金源獲得の手段)に直結するし、経済的損失を与えかねないから危険なんじゃないですか?
真鍋:鈴木さんの『サカナとヤクザ』も密漁ビジネスが題材だからシノギに直結してますよね。書かれた暴力団との間で問題にならなかったんですか。
鈴木:細かくは書けないです。ナマコなんかは北海道全域に何十もの密漁チームがあるので、エリアさえ特定しなければボカせる。警戒されなくなるまでが大変で、試されたりする。一度、認められれば問題ないのですが、誰も知らない事実を知ると書きたくなる。小出しに書いてしまって問題になったのですが、なんとか沈静化しました。
真鍋:私の場合は飲んだりしながら話しているという感覚です。それで朝まで付き合って、その人が朝方、わりと本音のことをしゃべってくれたことを記憶しておいて、それを核に作品をつくるって感じです。
鈴木:それはシノギの手口の情報とかではなく、感情とかってことですか。
真鍋:そうです、感情です。やっぱり描きたいのは人間のドラマなので、その人の本音の感情が漏れれば、それが作品づくりにつながる。決してドラマチックな言葉でなくてもいいんですよ。