ライフ

鎌田實医師「6秒間の心停止」で改めて考えた「死」と「老い」の覚悟

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

 患者になってみて、初めて知り、感じられることがある──。心房細動の治療で入院した、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、「老い」と「死」について改めて考えた。

 * * *
 ホルター心電図を着け、24時間の不整脈の状態を調べた。その結果をみた主治医が、慌てて電話をかけてきた。夜間の睡眠中に6秒間、心停止しているというのだ。

 心房細動による脳梗塞予防のため、アブレーション(電気的焼灼術)を受けたが、すっぱり改善とは言えない状態が続いている。主治医は、念のためペースメーカーを入れることを考えたほうがいいと言う。

 確かに、服薬治療をしているのに、4~5秒の心停止がある場合はペースメーカーも検討される。だが、ぼくは、現時点でのペースメーカーは断った。

 それにしても、「6秒間の心停止」というのは、自分でも少し驚いた。そのままこの世とオサラバということも、可能性は低いが、無きにしもあらずである。

 しかし、ビビっていたら、何もできない。大事をとって動かないでいたら心房細動の発作は起こりにくいが、筋肉は減り、老化が進んでしまう。長期的にみれば、マイナスのほうが大きくなってしまうだろう。

 だから、主治医には「そのまま心臓が止まったとしても、先生を責めないよ。家族にも、ぼくの覚悟はちゃんと伝えているから大丈夫。生きている間はピンピンしていたい。生きる長さにはこだわっていない」と伝えた。

 主治医はわかりました、と納得してくれた。

「死」の覚悟より難しい「老い」の覚悟

「6秒間の心停止」にもあまり動揺せず、楽観的に捉えられたのは、以前から「死」を覚悟しているからだろう。

 思い出すのは、脚本家の橋田壽賀子さんのことだ。4年ほど前、月刊「文藝春秋」で、安楽死や尊厳死について対談をした。彼女は認知症になったら安楽死したいと発言し、物議をかもしていた。

 それに対して、ぼくはこんなふうに答えた。認知症はいろんな段階があり、症状と環境によっては普通に生活できることも多い。どの段階の認知症になったら安楽死がしたいのか判断が難しいのではないか、と。

 そもそも日本では、安楽死は認められていないし、医師としてはとうてい受け入れられない。けれど、橋田さんの気持ちはよくわかった。「自分らしさ」を失ってまで、無理して生きたくないということなのだ。「死」の覚悟よりも、自分の一部を一つひとつ失っていく「老い」の覚悟のほうがはるかに難しいのだ。そして、「死」の覚悟がなければ、「老い」を思い切って生きる覚悟も生まれない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

6月6日から公開されている映画『国宝』(インスタグラムより)
【吉沢亮の演技が絶賛】歌舞伎映画『国宝』はなぜ東宝の配給なのか 松竹は「回答する立場にはございません」としつつ、「盛況となりますよう期待しております」と異例の回答
NEWSポストセブン
さいたま市大宮区のマンション内で人骨が見つかった
《さいたま市頭蓋骨殺人》「マンションに警官や鑑識が出入りして…」頭蓋骨7年間保管の齋藤純容疑者の自宅で起きた“ある異変”「遺体を捨てたゴミ捨て場はすごく目立つ場所」
NEWSポストセブン
大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン