笑ってしまったのは、橋田さんは安楽死を望んでいるといいながら、血液検査が大好きで、毎月病院へ行って検査をしていること。人間ドックも頻繁に受けている。バランスボールを使って、きちんと体幹の筋トレもしている。
安楽死を望みながら、健康に気を遣うなんて、矛盾しているように思える。けれど、「いつか死ぬ」と覚悟することは、「早く死にたい」ということではない。生きている限りは、自分が思うように生きたい、ということなのだ。
橋田さんは今年4月、95歳で亡くなった。急性リンパ腫のため入院していたが、延命治療拒否の意思を聞かされていた俳優の泉ピン子さんが、熱海の自宅に連れ帰り、看取った。本人が望んだ形の、穏やかな最期だったようだ。
完全な治癒はないから微調整が大事
ペースメーカーを提案されたぼくだが、心房細動の治療は当面の間、抗不整脈薬を使い、様子をみることにした。
その一方で、睡眠時無呼吸症候群が見つかり、心房細動の原因である可能性が浮上してきた。睡眠時無呼吸症候群は、日本では200万人いる。高血圧のリスクが2倍になり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは4倍になる。恐ろしいことに、本態性高血圧の26~48%が、睡眠時無呼吸症候群を合併しているというデータもある。高血圧で治療中の人は、一度チェックしたほうがいい。
熟睡アプリという便利なものがあって、睡眠中の振動や音に反応して、睡眠中、どのくらいの時間、いびきをかいているかを記録してくれる。ぼくも、このアプリを使い、一晩に合計49分間、いびきをかいていることを知った。
いびきの原因の一つは、寝相によって気道が狭くなること。さらに気道が閉塞すれば無呼吸になる。脳腫瘍や脳卒中などで、呼吸中枢に異常がある場合、気道の閉塞とは関係なく無呼吸になることもある。
ぼくの場合は、気道の閉塞型なので、枕を調整することにした。「いびきストップ」という枕を2つ買って、試してみた。すると、熟睡アプリで、いびきの時間が1分未満になった。枕だけでこんなに気道が確保されるのか、と驚いた。さらに、諏訪中央病院の歯科口腔外科でマウスピースを作ってもらっている。
睡眠の質がよくなったおかげか、日中の体調もよくなった。無呼吸が無くなり、心臓への負担が軽くなって、心房細動の発作が減ることを期待している。
もちろん、いずれペースメーカーが必要になったときには再検討する。だが、今の時点では安易に大がかりなことはせず、自分で確認しながら、微調整を繰り返していきたい。それが、老いを受け入れる準備になると思っている。