若手が先輩を恐れなくなったということについては、次のような意見もあった。王将位を2期獲得した中村修九段(58)はAIの影響を指摘する。
「AIとは何度指しても勝てないので、公式戦でどんなに強い人と対戦してもまったく委縮しなくなりました。だってもっと強い存在がいるんですから」
AIの登場によって、盤上での純粋な技術勝負が加速している。積み上げてきた実績の威光が薄れてしまうのだから、ベテラン受難の時代である。
自らを客観的に評価し続ける
羽生の通算成績は1485勝636敗(8月2日時点)。勝率は7割ジャストだ。2000局以上指して7割も勝っているのは驚異的だが、近年は5割台の勝率が続いていることもあり、このままだと7割を切る日も遠くはない。
羽生の研究パートナーを12年以上務めている長岡裕也六段(35)はこう証言する。
「強い時は相変わらず無茶苦茶強いです。ただ昔と比べると、パフォーマンスが安定しないことが少しばかり出てきているように見えます」
現在の自分の成績について、羽生自身は「一喜一憂しないようにしています」と語る。
「大事なことは、自己評価と周囲の評価がどれぐらい一致しているかです。一致していれば、あまりストレスは感じない。本当はそれほどでもないのに高く評価されている時も、本当はもっとできるのに低く評価されている時も、いずれもストレスになるんです。自分自身を客観的に評価することはものすごく難しいのですが、特に棋士はその作業をやり続けなければいけません」