羽生は35年のキャリアでずっと自分自身を冷静に見ようとしてきた。自分の現状を正確に把握しなければ、次に何をやってもうまくいかない。自己を客観視することの積み重ねがいまを作っているのだ。
羽生を近くで見てきた長岡六段も、どういう状況でも羽生が変わらないことを指摘している。
「27年間もタイトルを保持してきた人が無冠になるのは、周囲から見たら大変な状況でしょう。でも羽生先生は相変わらず努力を続けていて、将棋に真摯に向き合われています。白星を重ねている時もそうでない時も、研究会での態度は何一つ変わりません。とにかく高いモチベーションをずっと維持されているんです」
文/大川慎太郎(将棋観戦記者)
1976年生まれ。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。
※週刊ポスト2021年8月20日号