10錠がたった2錠に
同院に転院して断薬、減薬に成功した60代男性Aさんの例だ。40代後半から180/100程度まで血圧が上がり、総合病院の循環器内科を受診。長年にわたって降圧剤を処方され、血圧を130/80程度に調整してきた。
処方されていた薬を聞いて、松田院長は驚愕したという。5種類の降圧剤(アムロジピン5mg・2錠、ニフェジピン20mg・4錠、オルメテック20mg・1錠、ビソプロロールフマル酸塩5mg・1錠、トリクロルメチアジド2mg・1錠)に加え、高コレステロール薬(ベザフィブラートSR 200mg・1錠)まで処方され、1日計10錠を服用していた。
Aさんは日常的に目まいや立ちくらみ、動悸を感じ、虚脱感に悩まされていたという。これ以上薬が増えることを心配した家族が転院を勧めた。
「ニフェジピンは10mg・1錠ですら血圧が大幅に下がるのに、20mgを4錠も処方されていました。おそらく医師は血圧しか診ておらず、下がらないから1錠、また1錠と増えていったのでしょう。その結果、Aさんの身体には1分間に120回の頻脈が起きていました。血圧を下げすぎたことで、逆に血液のポンプである心臓に負荷をかけていたのです」
松田院長は、まず高コレステロール薬を中止した。
「コレステロールは細胞膜の材料になり、脳や神経細胞にも非常に多く含まれる必須の物質です。善玉も悪玉もありません。薬でコレステロールを下げると、肝細胞の膜が薄くなって肝障害が起きる可能性もあります。あまりに高すぎる人や、特殊な病気の人を除いて、高コレステロール薬は必要ないと考えています。降圧剤や抗凝固剤などのようにやめたことで症状が悪化するケースはほとんどないので、高コレステロール薬はまずやめてもらいます」
次に5種類あった降圧剤の減薬である。降圧作用が弱いアムロジピン、オルメテック、ビソプロロールマフマル酸塩を1錠ずつ残して中止した。薬を減らしただけでは血圧は上がってしまうので、減塩を中心にした食生活の見直しや、運動、睡眠といった生活習慣の見直しを指導した。
2週間後の診察では、降圧剤を減らしたことで、毎分120回あった頻脈が78回にまで減った。血圧も減薬したにもかかわらず生活改善により118にまで低下。さらに減薬を進めても問題ないと判断し、徐々に量を調節して、現在は2種類の降圧剤1錠ずつにまで減薬できた。いまも治療は継続中である。
松田院長は、「Aさんの場合は、ご本人の薬をやめたいという思いが強かったので、スムーズに進んだ」という。
「薬をやめることに抵抗感が強い患者さんには、一緒に処方薬の解説書を読むことにしています。たとえば、高コレステロール薬を服用している患者さんで、『運動もしていないのに筋肉痛のような怠さを感じる』と身体の不調を訴えるケースがありますが、解説書に副作用として『筋肉痛』と書いてあると、『この症状は薬の副作用だったのか』と納得してもらえます」
松田院長によると、同院を訪れる中高年の患者は1日10種類以上の薬を服用している方も少なくない。不安を解消しながら少しずつ減薬していくという。
「それでも『降圧剤をやめるのは不安』などという人には、弱い降圧剤を少量使い、ビタミンCや副作用が少ない漢方薬、不足しがちなミネラルとして亜鉛などを処方しています。一番大事なのは患者さんの“安心”で、現状の薬で副作用もなく、安心して暮らせているのなら、無理に減らす必要はないと思います」