バブルを経験したからこそ、「肩の力を抜いて新しいことを始められる」と語る甘糟りり子さん
誰もが「自信」と「期待」を持っていた
石田:ぼくは理子(東尾理子夫人)から、「根拠ない自信がすごい」ってよく言われるんです。でも、それでいいんじゃないかな、と思ってます。20代後半、ぼくは売れない役者でしたが、友人たちはすごかった。ソニー勤務でウォークマンの開発チームに所属していた友人なんかは確実にステップアップをしていて、かっこよかった。自分は役者を目指して舞台をかじった程度で、今思えば焦っていた。役者を志したものの、やっぱりまともに就職しておいた方がよかったのかなと。
でも、それを救ったのが「根拠なき自信」。そして、それを後押ししたのが、1990年という時代の空気でした。まさに“明日に期待が持てる時代”で、懸命に頑張れば報われる──ぼくもそれを信じていた。そして、今も信じている。
甘糟:女性セブン読者は50代以降のかたも多いでしょうけれど、楽しかった時代を懐かしむだけではなくて、あの頃の空気、あの頃の自分を思い出して、もう一度何かにチャレンジするのもいいんじゃないでしょうか。別に大きなことでなくてもいいけれど、新しい何か。自分をアップデートするつもりでね。
今の私たちなら、若い頃ほど気張らずにいられるし、肩の力を抜いて何か新しいことを始められるでしょう。人生100年の時代ですよ。60才で引退やら定年といわれても困ります。
石田:ぼくは今67才ですけど、映画を撮りたい。監督に挑戦したいと思っています。好きなことやこれまでやれなかったことに挑戦する、そうした気概を持つのは楽しいじゃないですか。
甘糟:バブルは単なるバカ騒ぎに見えるかもしれない。でも、その時代に居合わせたおかげでいろいろと極端なことを経験できました。だからこそ、「普通」の価値、変わらないことの良さもわかるようになった気がします。
石田:そう。コロナ禍で世界全体が萎縮しているけど、こんな時代だからこそ、下を向かず、元気を失わず、暮らしていきたいと思います。幸いにも、あの頃を頑張ってきた経験があるから、いろんなことを乗り切れるように思うんです。1990年という年は思い出に変わっても、確実にぼくの心の中に生きていて糧となっている。そう思いますね。
【プロフィール】
石田純一/1954年、東京都目黒区出身。俳優。トレンディードラマでブレーク。現在、『斉藤一美 ニュースワイドSAKIDORI!』(文化放送)、『DaiGoと石田純一のおしゃべりゴルフ』(TOKYO MX〈放送予定〉)などに出演。
甘糟りり子/1964年、神奈川県横浜市出身。作家。ファッションやグルメ、車等に精通し、都会の輝きや女性の生き方を描く小説やエッセイが好評。著書に『エストロゲン』(小学館)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)など。最新刊は1980年代後半から1990年代前半のあの空間と時間を描くエッセイ『バブル、盆に返らず』(光文社)。
撮影/矢口和也
※女性セブン2021年8月19・26日