変化に直面して新しい自分を受け入れていくという、主人公の魅力を語った福田の話を受けて、入江監督はこう指摘する。
「福田さんのお話を聞いていて思ったんですが、『シュシュシュの娘』は“一歩踏み出す主人公の話”なんですよね。ずっと日常が停滞していて引っ込み思案だった主人公が、自分の足で一歩踏み出す。それだけの映画とも言えるし、もうちょっと広げて考えてみると、去年僕らがやったこともそういうことだなと。
福田さんはフリーになって一歩踏み出したわけですし、僕は僕で自主映画に向けて歩き出した。そうやって出来た映画だなとあらためて思いました。だから観ていただいた方に『私も一歩何か歩んでみようかな』と思ってもらえることがあれば、それだけでとても嬉しいですね。『あまりミニシアターに行ったことがなかったけど、行ってみようかな』とか、この映画がそういったことのきっかけになれたら本望です」
『シュシュシュの娘』の映画内容自体は、ミニシアター支援を直接的に表現しているわけではなく、とにかく痛快な娯楽作品だ。しかしその映画のストーリーには、先の見えない状況の中で一歩踏み出すという、コロナ禍の中で生きるさまざまな人々の思いと重なるところがある。それは表面的な政治風刺よりも深いところで、現下の社会問題に鋭く切り込んでいるとも言えないか。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)