なんとか逆立つやり手ババアの気を収めた二郎さんは、興奮の坩堝に突入する。
「アイカタがねェ、最初から『あァたァ、あァたァ』といい気で演技するでしょうが。いまなら『まじめにやれ』というところだけど、そのときは女はそんなもんかと、ハッスルしましてね。一時間以内に四ラウンドまじえたように記憶しております」
初体験を思い出すと昂りを抑えきれず、呼び方はいつの間にか“やり手婆さん”から“アイカタ”に変わっていた。
「童貞を一度破ったら、その翌日からガラリと人生観がかわりましてねェ。それからというもの、毎日のように遊郭にかよいましたよ」
22歳まで抑えた欲望を一気に発散した二郎さんも結婚後は遊郭へ足を延ばさず、浮気もしなかった。
「女性をホテルにさそうなんて考えると、それだけでもう億劫で戦意はしぼんじゃうもの。おまけに病気の心配までしていたんじゃ、もうどうにもできませんよ。女房どのに感染させて、そのあげくとっちめられて、と考えたら、それだけでね……」
“女房殿”以外には決して股間から“飛びます、飛びます”しない二郎さんだった──。
構成・文/岡野誠
【※本特集では現在の常識では不適切な表現が引用文中にありますが、当時の世相を反映する資料として原典のまま引用します】
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号