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小沢さんはご自身が交通犯罪遺族である。悪質な飲酒運転による事故でご主人の両親を亡くし、ご主人の妹と弟も重症を負った。そうした悲劇と向き合い、再発防止活動を行ってきた。
「私たちの事故は、2008年の2月17日、飲酒運転をした運転手によって起きました。とても寒い冬の日でした。事故は運転手のほか同乗者が2人、お酒を提供した人が1人と、全部で3つの罪と4人の加害者がいました。防げたはずの事故なのに、どうして私たちは犯罪被害者になってしまったのかを問い続けてきた13年でした。
事故当時、事故の連絡が入ると、4人が別々の病院に運ばれたとのこと、生死もわかりませんでした。家族全員で病院を駆けずりまわって、まず確認したのは「生きているかいないか」。そんな最低限の情報すらありませんでした。
義家族の車は対向車線に侵入してきた車と衝突し、義父と義母が即死しました。当時21才だった弟は第四腰椎骨折、たくさんの骨を折り、脳にもかなりひどい損傷があって、高次脳機能障害を負いました。それからPTSDという精神疾患も抱えています。
その双子の妹は、顔面に損傷を受け、手には細かいガラスが無数に刺さっていました。『大丈夫? 辛くない?』と声をかけると、『大丈夫、みんなは?』とまず家族を心配していました。そんな彼女の目からは血の涙が流れていたのです。彼女は今もPTSDと、高次脳機能障害を負っています」(小沢さん)
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遺族の体験談を聞いて、オンラインの画面越しにも多くの参加者が涙を拭う様子が見られた。池袋暴走死傷事故の遺族・松永さんは抱えきれないほどの辛い思いをもっているはずなのに、語り出す前に、
「聞いていて、おつらくなったり苦しくなったりすることもあるかもしれないので決して無理なさらず。そういうふうになってしまったときは、少し離席したりしていただいても大丈夫ですので、ご無理はなさらないでください」と参加者へ配慮の言葉をかけていたことに、他者を思いやれる人間性を感じた。
「私が今日お話しするのは、皆様に加害者に対する怒りとか憎しみを持って欲しからではありません。交通事故がひとつでもなくなってほしいと願っているからです。
真菜は多くを語らない寡黙な女性でしたが、出会ってから亡くなるまで人の悪口や愚痴を言っているところを見たことがありません。私は彼女のそういうところをとても尊敬していて、彼女のような人間になりたいと、憧れのような気持ちを抱いていました。遠距離恋愛を続けて結婚を申し込んだときは、『嬉しい』と泣いて喜んでくれました。
子どもを授かったときは、二人で飛び跳ねて喜びました。大きくなっていくお腹を幸せそうに撫でながら、『ベビーちゃん、早く会いたいね』と、本当に幸せそうな顔をしていました。2016年の1月11日、莉子が生まれてきてくれたときに、真菜は娘を胸に抱いて『かわいい』と言いながら涙を流していました。私が莉子の小さな手に触れると、力強く握り返してくれました。その温かさを感じ、命の尊さを感じました。
莉子が生まれてから亡くなるまで、真菜は毎日欠かさず、育児日記を書いていました。莉子が亡くなったとき3才だったので、1000日以上綴られたこの日記は、真菜の人柄と莉子の成長がよくわかるもので、今は私の宝物です。