最初は円形脱毛症から始まったという(写真はAさんのブログより)
モデルナやファイザーの「mRNAワクチン」は、これまでにない新しい仕組みのものだ。国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師の解説。
「毒性を弱めたウイルスを使う生ワクチンや感染能力を失わせた不活化ワクチンとは異なり、ウイルスのタンパク質の一部の設計図(遺伝子)を体内に注入する仕組みです。それにより、新型コロナウイルスの表面にある突起状の『スパイクタンパク質』が体内に作られます。人体の免疫系がスパイクタンパク質を認識すると、対応する抗体ができるとともに、感染した細胞を攻撃するキラーT細胞が活性化され、感染や重症化を防ぎます。
一方、mRNAワクチンと自己免疫疾患の関連については、現在、世界各国で注目されて研究が進んでいます。ワクチン接種後のキラーT細胞を含むリンパ球の暴走によって自己免疫疾患が起きる可能性を指摘した論文もあります」
Aさんは7月、地元の保健所に救済を求める申請をしたが、返答はなく、皮膚科からの紹介状で総合病院にかかり、治療を受けているという。厚労省に「ワクチンと脱毛」について見解を尋ねた。
「8月4日の分科会の報告書では、ファイザー製ワクチンの接種が約7400万回あったなかで、脱毛の副反応疑い報告が3件、確認されています。これらの報告は、ワクチンとの因果関係は明らかになっていないものです」(新型コロナウイルス感染症対策推進本部)
この現状をどうとらえるべきか。前出の伊藤医師はこう話す。
「円形脱毛症などの自己免疫疾患は人によって遺伝的ななりやすさ、なりにくさもある。ワクチンによる脱毛のリスクよりも、新型コロナ感染後の脱毛症の悪化や発症のリスクのほうが大きく、ワクチンは接種したほうがいいと考えます」
Aさんは7月下旬、悩んだ末に2回目の接種を受けたという。
「髪を失ったうえに抗体も十分に得られないのではあまりに中途半端。2回目を打つのかは個人の判断という話になったので、接種することにしました」(Aさん)
果たして今後、ワクチンと脱毛の関係は解明されるのだろうか。
※週刊ポスト2021年9月10日号