コロナ禍で農業を始めたり、地方へ移住したりする人が増え始めた。政府もさまざまな制度を設けて応援するが、そこに住む人々はどう考えているのだろうか。芸能人の場合、一般人以上に厳しい現実があるようだ。
「この地域は、高齢者が静かにのんびりと暮らしている場所なんです。それなのに、あの報道以降、県外から人が続々と集まってきてしまった……」
山梨県のとある集落に住む女性が困惑した表情で話す。集落が位置するのは、最寄りの駅から車で20分ほどの山間部。黄金色に輝く棚田や畑、貴重な野生動物の生息地である里山が広がっている。
そんな日本の原風景ともいえるのどかな集落に、この春、大きな変化があった。俳優の山田孝之(37才)と、彼が主宰する自給自足プロジェクトのメンバーが土地を借り、農業を始めたのだ。
「10年以上、放置されていた耕作地を借りて、山田さんの大好きなパクチーやトウモロコシ、きゅうりなどの野菜を無農薬で育てています。農業を始めるにあたっては専門家を招いて勉強会を開き、土づくりから始めたそうです」(農業専門誌記者)
彼がこの土地と出合ったのは今年1月。自然農法を実践できる場所を探していたところ、山梨県に移住していた友人から紹介されたという。土地の持ち主であるAさんはこう話す。
「知人から俳優さんが土地を借りたいと言っていると連絡があって、びっくりしました。農作業を始める前に一度、山田さんご本人がみえて、熱心にビジョンを語ってくれて。私としてはあの土地を使ってもらえて、感謝しているんです。日本には耕作放棄地がいっぱいありますからね」
日本の原風景と農業を守りたい──そう考える半面、自分が動くことで、住民たちの静かな暮らしを壊してしまいかねないリスクも彼は理解していたようだ。SNSやメディアのインタビューで地名を明かさないことをAさんや地元住民に約束。プロジェクトのメンバーにも、SNSで畑の場所を明かさないように厳命した。
しかし、今年4月。地元の新聞社が彼らの活動を取材した際、畑のある場所が報じられてしまった。
「山田さんたちは、紙面の隅に小さく載る程度だろうという認識だったそうです。でも蓋を開けてみたら、見出しに大きな文字で地名が書かれていて……」(冒頭の女性)
記事が出て以降、地元住民たちの山田やプロジェクトのメンバーを見る目が変わったという。70代の男性は眉をひそめながら話す。
「ここのところ、彼のファンや野次馬が全国から来るようになってね。畑の近くで写真を撮るくらいならまだマシ。山田さんが移住していると思い込んで、住所を教えてくれませんか?と近隣住民の家に訪ねてくる人もいるんですよ。この辺に住むのはほとんどがお年寄りなので、新型コロナのウイルスが持ち込まれる危険性を考えると、他県から若い人は来ないでもらいたい」