浅田と樹木さんが旅行したバリ島での一枚(写真/浅田さん提供)
なぜ「整形手術は良くない」と言ったのか
年齢差は13才。世代は違うが、樹木さんは浅田にとって《お芝居の師であり、同志であり、姉や母のような存在》(『ひとりじめ』より。以下同)だった。一緒に映画を見に出かけると、帰りがけに食事をしながら批評会が始まる。互いに“役者論”をぶつけ合うこともあれば、仕事から全く離れ、リゾート地を共に旅することもあった。
《「まあ、私たちが友達っていうのは、お互いにお得だよね。だって、美代ちゃんは天然ボケのイメージで通ってるけど、私みたいにシニカルで理屈っぽい女が友達にいるなら、『浅田美代子にも賢い一面もあるんだな』って世間様に思ってもらえそうじゃない?
私も私で、面倒臭い女のイメージで通ってるけど、美代ちゃんみたいな子と仲良いなら実は優しい人って思ってもらえそうだし」》
樹木さんは、2人の親しさを、こんなふうに語っていた。
2人の会話は多岐にわたった。ワイドショーや映画はかっこうの“ネタ”。いつも“人間観察”のやりとりが繰り広げられていたという。
ある日の朝、樹木さんから突然電話がかかってきた。受話器を取ると開口一番、テレビを見ろと言う。言われたとおりにチャンネルを合わせると、そこには有名女優。
「あの子やったわね」──その女優が整形手術をしたと樹木さんはほくそ笑む。
特に女優の“整形ネタ”が大好きだったという樹木さんだが、興味本位ではない。そこには樹木さんなりの「役者論」があったのだ。
《希林さんは、整形そのものを否定していたわけではない。「役者が整形すること」に反対していただけだ。主婦でも美魔女でも、役者でないのであれば、各々の価値基準にしたがって、いくらでも顔や体をいじればいい。だけど、様々な人間を、様々な人生を演じる役者を生業とするならば、「整形は良くない」と何度も話していた》
さらに、こうも話していたという。
《整形したら、整形した人の役しかできなくなっちゃうよね。市井を生きている人を演じても、嘘っぽくなってしまうじゃない。この仕事をしながらも、その役を生きることよりも、自分が美しく見られたいから整形するだなんて、私にはさっぱり理解できないよ》