ただ、年3回本場所が開催される国技館や、3月の大阪、7月の名古屋ではこの方法は採用されなかった。そのため白鵬が敗れるたびに座布団が舞った。「座布団が舞えばいかに重要な一番だったかのバロメーターになるし、テレビ観戦していても館内の興奮が伝わってくる」(ベテラン記者)という声は根強い。
今場所は枡席の定員が通常の4人ではなく2人に制限されているが、それでも2枚の座布団がセットされている。観客数も5000人の制限があるとはいえ、秋分の日で祝日だった9月23日は満員となった。それなのになぜ座布団が舞うことはなかったのだろうか。若手親方のひとりはこう言う。
「コロナ禍での開催では、アルコール類の販売が中止され、持ち込みもできない。これまでは狭い桝席に4人が座ってビールや日本酒を飲みながら観戦し、酔いが回ってきたところで番狂わせが起きる。酔いに任せて他人に当たることなど考えずに座布団を投げていたが、さすがにシラフでは座布団も投げづらいのではないか。マスクを着用し、飛沫感染防止のため大声での声援も禁止され、応援タオルを振っているだけなので、座布団を投げるような雰囲気にならない。そうした背景があるでしょう」
コロナ禍は相撲観戦だけでなく、番狂わせの一番にも“新様式”をもたらしているようだ。