34歳シングルマザーの合格は「ミラクルだ」
市民権を獲得して猛勉強に励み、LA市警察の試験に挑んだ。言葉の壁もあってなかなか結果が出なかったが、車の部品工場で働くなどして食いつなぎ、34歳でついに現地の警察学校(ポリスアカデミー)に入学した。
だが、待っていたのは過酷な訓練だった。
「まさに軍隊そのものでした。日本の警察学校のような寮はなく、自宅からの通学。毎朝5時にはグラウンドに直立不動で整列することを命じられ、その際は眼球を動かしてはいけなかった。挙動不審で落ち着きがない者は警察官になれないとの理由からです。メンタルを徹底的に鍛えるため、映画に出てくるような鬼教官の顔が2cm先まで迫り、『お前はクソだ!』『そんなんで警察官になれるはずがない。帰れ!』などとツバがかかる勢いで罵倒されました」
訓練中は仲間の1人がミスすると連帯責任で全員腕立て100回を課され、途中で誰かが床にへばるともう一度、全員が1回からやり直した。
休憩時間に仲間と談笑中、いきなりペイント弾が飛んできたこともある。緊急事態に対応できるかを問うテストで、どこから弾が発射され、狙撃手はどんな服装をしていたかなどを瞬時に把握できなかった生徒はクビになった。
「焦ったり逃げたりした者は、実戦で相棒にケガをさせるかもしれませんからね。下校途中、いきなり弾が飛んでくることもあり、常に気が抜けませんでした(苦笑)」
元軍人などが揃う中で訓練を耐え抜いたYURI氏は、入校から半年でポリスアカデミーを卒業、正式に警察官となった。
この時、60人いた同級生は18人になっていた。
「平均年齢は約24歳で女性は自分を含めて2人だけ。34歳で2人の子を持つ私の合格は『ミラクルだ』と言われました」
※週刊ポスト2021年10月8日号