こと垣根作品においては歴史から人間を俯瞰するというよりは、渦中の人間が生き、もがいた結果が歴史を成す。順番が常に逆だ。

「僕たち日本人は今後、おそらく大きな繁栄は望めない。よくて地味な勝ちがあるだけの状況に、何とか幸福や妥協点や折り合いを見出し、生き抜いていくしかない。そういう生き方の何かしらの『引っかかり』に、直家の物語がなれば幸いだと感じます」

 それでこそ読者もまた、直家と同じ地平に立てるのだ。

【プロフィール】
垣根涼介(かきね・りょうすけ)/1966年長崎県生まれ。筑波大学卒。旅行代理店勤務等を経て、2000年『午前三時のルースター』で第17回サントリーミステリー大賞と読者賞をW受賞。2004年『ワイルド・ソウル』で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を受賞した他、山本周五郎賞受賞作『君たちに明日はない』や『室町無頼』『信長の原理』も人気。大の車好きで「30年来の愛車マツダユーノス500 2.0GT-iさえあればいい自分を幸せだと思う」。165cm、67kg、A型。

構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎

※週刊ポスト2021年10月8日号

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